農業環境技術研究所 刊行物 研究成果情報 平成18年度 (第23集)

主要研究成果 11

大気CO2増加による水稲の群落光合成の促進は
葉窒素濃度に依存する

[要約]
大気CO2濃度の増加によって水稲の光合成は増加しますが、その程度が生育に伴い減少すること、その減少が葉窒素濃度の低下で説明できることを、群落レベルで初めて明らかにしました。将来の水稲生産量の予測を正確に行うために重要な知見です。
[背景と目的]
 大気CO2濃度は今後も上昇を続け、今世紀末には540〜970ppmに達すると予測されています。CO2濃度が上昇すると、水稲の個葉光合成は促進されますが、その程度は生育の進行に伴いしだいに低下することが分かっています。しかし群落レベルの光合成の促進が生育に伴ってどの程度低下するかは明らかではなく、そのことが将来の水稲生産予測における不確実さの一因になっています。そこで本研究は,群落光合成の高CO2濃度に対する応答が低下する要因を明らかにするために実施しました。
[成果の内容]
 農業環境技術研究所内の自然光人工気象室(図1)を用いて、水稲(品種「日本晴」)を現在の外気CO2濃度(380ppm)と高CO2濃度(680ppm)の2条件で栽培しました。それぞれの人工気象室におけるCO2の収支を連続的に測定することにより、水稲群落の日中の光合成量と夜間の呼吸量を算出しました。
 その結果、CO2濃度の上昇による光合成の促進率は生育初期に高く、生育につれてしだいに低下しますが、呼吸速度は高CO2濃度によって生育期間をとおして促進されることが、群落レベルで初めて明らかになりました(図2)。水稲の生長は、光合成と呼吸の差し引きで決まることから、高CO2濃度による生長の促進は生育に伴い大きく低下することになります。
 光合成速度が葉窒素濃度と深く関わっていることが知られていますが、本研究の結果、高CO2濃度による群落光合成の促進率についても、葉窒素濃度が高い場合には高く、葉窒素濃度が低下すると低くなることが分かりました(図3)。さらに、いずれのCO2濃度条件でも葉窒素濃度は生育に伴い低下しますが、高CO2濃度条件ではその程度が外気CO2濃度条件よりも大きいことも、群落光合成の促進率を低下させる要因でした。
 これらの結果は、CO2濃度上昇時の水稲生産を正確に予測するためには、CO2濃度上昇下での稲体(特に葉)の窒素濃度を的確に予測する必要があること、CO2濃度上昇による生長の"施肥”効果を高めるためには、窒素管理が重要であることを示しています。

リサーチプロジェクト名:作物生産変動要因リサーチプロジェクト

研究担当者:大気環境研究領域 酒井英光、長谷川利拡、小林和彦(現:東京大学)

発表論文等:1)Sakai et al., New Phytol., 150: 241-249 (2001)

      2)Sakai et al., New Phytol., 170: 321-332 (2006)

図表

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