農業環境技術研究所 刊行物 研究成果情報 平成18年度 (第23集)

主要研究成果 13

土壌炭素動態の温暖化応答解明のための
高精度土壌加温システム

[要約]
農耕地における炭素蓄積の大部分を占める土壌炭素の蓄積量や土壌呼吸速度が温暖化などの環境変動にどう応答するか、またその変動メカニズムを解明するために、野外において高精度に地温を制御できる土壌加温システムを開発しました。
[背景と目的]
 農耕地土壌には膨大な量の有機炭素が蓄えられていますが、地球温暖化による温度上昇は微生物による有機炭素の分解を促進し、農耕地土壌からの二酸化炭素放出を増大させるため、大気中の二酸化炭素の濃度をさらに増加させることが危惧されています。しかし、長期的な温度上昇に対して、土壌有機炭素の分解量を示す土壌呼吸速度がどう応答するのかはよく分かっていません。そのため、土壌を温める野外操作実験によって地温上昇と土壌呼吸の長期的な変化を調べることが、温暖化したとき農耕地の土壌炭素動態がどう変化 するかを精度よく予測する上で必要不可欠です。そこで、圃場レベルで加温効果による土壌呼吸速度の変化を調べるため、精密に地温をコントロールできる土壌加温実験のシステムを開発しました。
[成果の内容]
  1. 土壌加温方法として、赤外線ランプで土壌の上部から暖める方式(以下赤外線ランプ方式)と地中に地熱線を埋め土壌の下部から暖める方式(以下地熱線方式)の2通りのシステムを構築しました(図1)。農業環境技術研究所内のコマツナ畑に、赤外線ランプ区と地熱線区の2つの加温処理区および対照区を設置し(各2×2m2)、加温処理区の土壌深2cmにおける温度を対照区の温度プラス2±0.2℃で電源をオン、オフすることにより制御し、地温プロファイル(2、5、10cm)および土壌水分の変化をモニタリングしました。
  2. 両方式とも設定通りの加温制御ができましたが、赤外線ランプ区の制御(図2A)は地熱線区(図2B)に比べ応答が早い制御が可能であり、さらに土壌の温度プロファイルも現実的であることから、より有効であることがわかりました。
  3. 土壌有機炭素の分解量を示す土壌呼吸量を測定した結果、赤外線ランプ区および地熱線区とも、加温開始直後から土壌呼吸速度の増加が認められました(図3)。
  4. このように、本高精度土壌加温システムを用いて、地球温暖化が土壌炭素動態へ及ぼす影響に関する基礎データを得ることが出来るようになりました。
  5. このシステムは、地温と作物の生長や収穫量の関係などを明らかにする研究にも応用することができます。
本研究は農林水産省(環境省)委託費「地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響の評価と高度対策技術の開発(地球温暖化研究)」の実行課題「農耕地土壌における炭素収支の評価と予測に向けた土壌炭素動態モデルの開発」による成果です。

リサーチプロジェクト名:炭素・窒素収支広域評価リサーチプロジェクト

研究担当者:物質循環研究領域 岸本文紅、大気環境研究領域 米村正一郎、横沢正幸



図表

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