農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

普及に移しうる成果 7

水稲の温暖化影響評価のための
「モデル結合型作物気象データベース」

[要約]
1980 年以降の日本全国の気象データに、水稲穂温や水田水温を推定するモデルを加えたモデル結合型データベースを開発しました。これにより、水稲の生育や収量に直接的な影響を与える気象要素が推定でき、温暖化影響の実態把握や解析に役立ちます。
[背景と目的]
温暖化や異常気象による作物の生産変動を正確に予測し、将来の収量低下のリスクを評価するためには、近年の気候変動が実際の作物生産に及ぼしている影響や要因を総合的に解析する必要があります。本研究では、日本各地の水稲生産の変動要因を調べる目的で、アメダス地点における気象データに水田物理環境・生育モデルを組み合わせた「モデル結合型作物気象データベース」を開発しました。
[成果の内容]
 データベースには全国のアメダス地点(約850地点)における1980年以降の日別気象データを収納しました。気温、風速、降水量などの基本要素に加えて、日射量、湿度、蒸散要求量などの作物生産において重要な要素(モデルによる算定値)を収納したことが、本データベースの大きな特徴です。各地点における気象データには、地力保全基本調査による土壌データ(日本土壌協会)を付加しました(図1)。
 データベース上のメニュー画面もしくはGoogle Earthの地図上から、任意のアメダス地点を選ぶことによって、気象データを容易に取り出すことができます(図2)。
 データベース本体に「物理環境モデル」と「生育モデル」が組み込まれていて(図1)、水稲の稔実や登熟に影響を及ぼす水田水温(日別値)や出穂・開花期における穂温(時別値)、主要品種の生育ステージやLAI(葉面積指数)などを推定することができます(図3)。これらのモデルは、すでに実測データに基づく詳細な検証がなされています。なお、本データベースはExcel上で動作するようになっています。
 本データベースを既存の作物データベースや栽培試験データと組み合わせることによって、近年の温暖化傾向や気象変動が水稲生産に及ぼしている影響を解析・解明するためのデータセットが容易に得られます。これらの解析を通して、水稲生産の将来予測や収量低下のリスク評価、適応技術の開発などに大きく貢献します。本データベースは希望者に提供しますので、大気環境研究領域の桑形(Tel 029-838-8202)までご連絡ください。
リサーチプロジェクト名:作物生産変動要因リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 桑形恒男、吉本真由美、石郷岡康史、長谷川利拡
発表論文等:Yoshimoto et al., J. Agric. Meteorol., 60: 597-600 (2005)

図表

図表

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