農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

主要研究成果 7

作物可食部のウラン濃度が低いことをほ場試験で確認

[要約]
ほ場で各種作物を栽培し、可食部中のウラン濃度を測定したところ、いずれも低濃度で、土壌から作物への移行は少ないことが確認でき、作物に含まれるウランの放射能面からの安全性を示すことができました。
[背景と目的]
天然物に含まれる放射性物質の危険性の再評価が国際的に行われてきています。肥料原料には不純物としてウランが含まれており、食の安全の観点からの調査が求められています。そこで、作物、特に可食部のウラン濃度と、そこへウランが土壌から移行する割合(移行係数)を主要な農作物について明らかにすることを目的に研究を行いました。
[成果の内容]
 植物中のウラン分析法を確立して、日本各地から集めた主要穀類の可食部中ウラン濃度を測定したところ、0.1μg kgDW-1以下と極めて低い値でした(表1)。移行係数は放射線分野で環境中の対象核種の移動性を評価するのに広く用いられている指標です。表1では作物可食部中のウラン濃度/土壌作土中のウラン濃度を移行係数として表しており、土壌の濃度に比べて作物可食部の濃度が1/20,000以下と低いことを示しています。
 約30年間畑として用いている農業環境技術研究所内にある黒ぼく土ほ場の表層10cmのウラン濃度は、隣接する未耕地よりも明らかに高くなっていますが、容易に植物に吸収されると考えられる酸可溶態のウランは全ウランの1.6%しかありませんでした(表2)。
 上記畑ほ場で栽培した34作目の可食部ウラン濃度およびウラン移行係数を明らかにしました。全体的に見ると、可食部ウラン濃度が10μg kgDW-1を超えるものはなく、低濃度であることを確認しました。また移行係数が0.005を超えるものはなく、ウランは可食部に移行しにくい元素であることがわかりました(表3)。
 上記データから作物のウラン摂取による内部被ばく線量を概算しました。日本人の平均的作物摂取量(国民栄養調査報告)を乗じたところ、植物性食品(果物、キノコ、海藻類を除く)から摂取されるウランの放射能量は、年間0.25Bqでした。核種による人体への影響度を加味したウランの実効線量は、年間0.01μSvであり(表4)、作物に含まれるウランの放射能面からの安全性が示されました

※1人の人間が自然界から受ける内部および外部被ばく全体の実効線量の世界平均は年間2.4mSvであり、この他に医療被ばく(胸部X線撮影では、1回0.05mSv)も受ける場合があります(アイソトープ手帳10版、p.151)
本研究は、農林水産省「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」の「人への健康影響が懸念される肥料由来の危害要因に関する研究」の成果です。
リサーチプロジェクト名:重金属リスク管理リサーチプロジェクト
研究担当者:土壌環境研究領域 木方展治、山口紀子、川崎晃、荒尾知人
発表論文等:Yamaguchi et al., Environmental Radiochemical Analysis V, RSCpublishing: 52-59(2007)

図表

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