農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

主要研究成果 12

日本で使用された農薬のゆくえを明らかにできる
地球規模の挙動予測モデル

[要約]
農薬を含む残留性有機汚染物質の、地球規模での動きを明らかにするモデルを開発しました。このモデルを使って、日本の水田で過去に使われた農薬の動きを追跡した結果、その一部は北極にまで達していることがわかりました。
[背景と目的]
POPsと呼ばれる残留性有機汚染物質が北極域で検出されるなど、地球規模の環境汚染が問題となっています。欧米では地球規模のモデルを使ってその挙動を明らかにしようとしていますが、これら欧米のモデルは、日本やアジアでさかんな水田農業とそこで使われている農薬に対応していません。そこで私たちは、水田のことを考慮に入れた地球規模モデルを新しく開発し、日本で過去に使用された農薬のゆくえを追跡しました。
[成果の内容]
 開発した多媒体(メディア)モデル(マルチメディアモデル)は、グリッド内でメディア間の移動を表現し、さらにグリッド間の時間的移動を表現することにより、農薬やPOPsの地球(全球)規模の挙動を予測します。一つのグリッド(計算の単位)では、上層・下層の大気層、畑地・水田・森林・他の土地利用、に分けられた陸面、および河川湖沼とその下の底質、さらに海洋を加えた9つのメディアがあります。緯度15°経度30°を一つのグリッドとすると、地球は東西および南北方向にそれぞれ12、つまり144のグリッドで構成されることになります(図1)。
 まず日本で過去に使われた数種のPOPs農薬について、実際の使用量を用いて土壌中の残留量をモデル計算しましたが、このモデルで得られた水田土壌中濃度の時間変化(図2)は、全国各地の水田土壌中の農薬濃度を経年的に実測した値をほぼ再現していました。このうちヘキサクロロシクロヘキサン類(HCHs)、中でもリンデン(γ-HCH)についてはさらに、このモデルを用いて地球上の他の地域での詳しい濃度と残留量の分布を見ました。その結果、リンデンを日本で使っていた1970年前半までは、日本付近の大気海洋に多く残留していましたが、日本での使用停止後、日本付近での残留量は急速に低下しているのに対して、北の海域に行くほどその低下量は小さく、最近でもかなりの量が北極海域に残留していることがわかりました(図3)。
 このように、過去に日本で使った農薬の一部は北極域に達しているようです。日本では現在、HCHsの使用は禁止されていますが、他の国ではまだ使われているために、今でも北極を汚染していることが予想されます。このモデルを用いることにより、日本をはじめ世界で現在使用中または開発中の農薬の広域な動態を推測し予測することが可能となり、有害化学物質の地球規模での汚染防止に大きく貢献します。
本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:有機化学物質リスク評価リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 西森基貴、有機化学物質研究領域 小原裕三、魏永芬・秋山侃(岐阜大流域圏科学研究センター)
発表論文等:1) Nishimori et al., Organohalogen Compounds, 69: 1461-1464 (2007)
      2) Nishimori et al., Organohalogen Compounds, 68: 1151-1154 (2006)

図表

図表

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