農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

主要研究成果 16

温室栽培トマトと露地栽培トマトの葉面生息細菌相は著しく異なる

[要約]
トマトの葉に生息する培養可能な細菌の構成や菌量は栽培条件で異なり、露地栽培トマトの菌量は温室栽培トマトの約100倍で、優占細菌群も異なりました。これら常在菌は、トマトの毒素α-トマチンに対する耐性、分解能が、既知の病原菌と異なりました。
[背景と目的]
地球の植物体上には約1026個の細菌が生息し、農業生態系で大きな役割を果たしていると考えられていますが、その役割はまだ不明です。植物上の細菌は、降雨・乾燥、強い紫外線の照射などの激変する環境条件と、植物側からの抵抗(毒素生産など)に適応するために特殊な能力を獲得してきたと考えられ、これらの機能の解明は、農業生態系の維持や微生物の有効利用に役立ちます。そこで、我々は各種作物の生息細菌の種類や機能解析を行い、今回トマト葉の細菌数、種類および毒素分解能を解析しました。
[成果の内容]
  1. 生育期間中の露地栽培トマトの全細菌数は約108個/g(生重)で、温室栽培トマトの全細菌数(最大で約106個/g)の約100倍でした(図1)。温室栽培と露地栽培トマトの葉(6葉位)の分離細菌959菌株について、16SリボゾームRNA遺伝子の塩基配列から種類(属レベル)を推定しました。その結果、栽培環境で多様性程度には差はないが(表1)、優占菌の構成は温室栽培と露地栽培で異なり、前者ではグラム陽性のBacillus属が、後者ではグラム陰性のPseudomonas属細菌が優占していました(表2)。このように、栽培条件で葉面の細菌数、優占菌の種類が異なることがわかりました。
  2. トマトは、毒素α-トマチンを生産していることが古くから知られています。そこで、各属から選抜した219菌株のα-トマチン耐性能を調べました。その結果、トマト由来の分離細菌の多くは、α-トマチン(250、500、1,000ppm)に耐性であることがわかりました。その一方で、これら供試菌はα-トマチンを分解する能力はありませんでしたが、トマトかいよう病菌(Curtobacterium michiganensis subsp. michiganensis)だけは分解できることがわかりました。
  3. 以上の成果は、トマトの葉上に生息する病原菌を含む微生物の管理技術の開発や、病原菌と常在細菌との進化機構の違いの解明に役立ちます。
研究担当者:生物生態機能研究領域 對馬誠也、小板橋基夫、塩谷純一朗(元:東京農業大)、篠原弘亮(現:東京農業大)、吉田重信(現:農林水産省)、
      月星隆雄(現:(独)農業・食品産業技術総合研究機構)、根岸寛光(現:東京農業大)、陶山一雄(現:東京農業大)
発表論文等:1) Enya et al., Microbial Eco., 53: 524-536 (2007)
      2) Enya et al., J. Phytopathology, 155: 446-453 (2007)

図表

図表

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