農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

主要研究成果 22

未来の水田生態系を予測する周年開放系温暖化実験システム

[要約]
日本の代表的な農耕地生態系である水田での水稲の生育・収量や炭素・窒素収支が、地球温暖化によってどう変化するかを実験的に明らかにするために、水田生態系における周年開放系温暖化実験システムを開発しました。
[背景と目的]
地球温暖化は、夏季の水田生態系において、水稲の生育や収量だけでなく水田からの二酸化炭素やメタンの発生にも影響すると懸念されています。また、冬季の非作付期間の温度上昇は、土壌水分や土壌微生物活性の変化を通じて年間の炭素・窒素収支を変え、長期的に夏季の水稲生育環境や温室効果ガス動態に影響を及ぼす可能性があります。これらの長期的な応答を明らかにするためには周年で温暖化実験を行う必要があります。そこで、夏季の水稲生育期間と冬季の非作付期間にわたり、屋外の水田生態系を温暖化できる周年開放系温暖化実験システムを、世界で初めて開発しました。
[成果の内容]
 農業環境技術研究所内の水田に、4反復の温暖化区と対照区を設けました(各4×5m)。夏季の水稲生育期間は、電気温床線を畝間の水中に設置し、温暖化区の水温が対照区より2℃高くなるように、温度調節計を用いて自動的に制御しました(図1:PROSPECT)。水温について設定通りの制御ができ、水稲の根圏の地温も加温できていました。
 冬季の畑状態の非作付期間は、電気温床線による制御が困難なため、赤外放射反射シートを用いて夜間の放射冷却を抑制することにより夜間の地温を上昇させる装置を開発しました(図2:PROPHET)。シートの展張と巻き取りはモーター付巻取機をデータロガーで操作することにより自動的に行いました。この温暖化処理により、夜間の地表面温度は対照区より1〜4℃高く維持できました。特に深さ10cmでは夜間のシート被覆による保温効果が昼間まで残っており、土壌が安定的に温暖化されていることがわかりました。
 開発された周年温暖化実験水田で水稲の出穂日を調べたところ、温暖化に対する出穂時期の反応に品種間で違いがあることなど(表1)、水稲の生育への温暖化影響について興味深い結果が得られつつあります。このように、周年開放系温暖化実験システムを用いて、地球温暖化が水田生態系の生産性や物質循環に及ぼす影響についての実験データが得られるようになりました。
  (PROSPECTはPaddy Rice On-Season Powered Elevation of Cultivation Temperature、PROPHETはPaddy Rice Overnight Passive Heating Experiment in Tsukubaの略で、共に未来の水田生態系を正しく予言・予報する者との意味を含めて命名しました。)
本研究は、運営費交付金および農林水産省委託プロジェクト研究「地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響の評価と高度対策技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:作物生産変動要因リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 吉本真由美、福岡峰彦、長谷川利拡

図表

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