農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成20年度(第25集)

普及に移しうる成果 5

温室効果ガスの可搬型自動サンプリング装置の開発

[要約]
農耕地から発生する温室効果ガスの可搬型自動サンプリング装置を開発しました。これにより、農耕地から発生する温室効果ガスフラックスのより正確な推定や、削減方法の開発に貢献します。
[背景と目的]
農耕地から発生する温室効果ガスのフラックスは季節変動が大きいため、それを精度良く定量するためには、高頻度・通年測定することが必要とされています。しかし、これまで主流であった手動のサンプリング方法には多大な労力がかかるため、測定頻度や期間を十分にとることは困難な状況でした。一方、農環研の温室効果ガス発生制御施設では高頻度・通年測定が可能ですが、大型の固定式装置のため、他のほ場に移動することはできません。このため、可搬型の自動サンプリング装置を開発することを目的としました。
[成果の内容]
 手動のクローズドチャンバー法注)では、チャンバーの設置やガスのサンプリングなど一連の作業をすべて人力で行うため、多大な労力がかかります。これに対し、新たに開発したサンプリング装置を用いると、ほ場に設置した自動開閉チャンバー内のガスを設定時刻にサンプリングし、真空バイアル瓶に自動的に注入することができ、大幅な労力削減となります。例えば、6つのチャンバーで毎日1回の割合でサンプリングを行ったとすると、手動サンプリングでは10日間でのべ10時間以上必要であるのに対し、自動サンプリングではバイアル瓶の設置と回収に要する約1時間のみとなり、1/10以下の作業時間となります。また、標準ガスを用いたテストの結果、本装置による測定精度は手動サンプリングと同等であることが確認されました(二酸化炭素r2=0.998、メタンr2=0.999、亜酸化窒素r2=1.00)。本装置を用いることにより、農耕地から発生する温室効果ガスの高頻度・通年のフラックスを測定できます。さらに、本装置と温室効果ガス3成分同時自動分析計(平成19年度農業環境技術研究所研究成果情報p16-17)を組み合わせることにより、より効率的な温室効果ガスフラックスのモニタリングが可能になります。また、本装置は可搬型(大きさ:390×590×高さ870mm、重さ:約50kg(大きさ、重さともに設置用台および遮光版を含む))であるため、様々な圃場に設置することができます。これにより、農耕地における温室効果ガスの削減方法に関する研究が大幅に進むことが期待されます。

注)クローズドチャンバー法:農耕地から発生する温室効果ガスのフラックスを測定する場合に広く使われている方法。ほ場にチャンバー(底のない容器)を置き、一定時間ごとにチャンバー内の空気サンプルを採取し、サンプル中の温室効果ガス濃度を分析することによりフラックスを定量します。

リサーチプロジェクト名:温室効果ガスリサーチプロジェクト
 研究担当者:物質循環研究領域 秋山博子、須藤重人、田野中武志(グリーンブルー(株))、早川 敦、八木一行
 発表論文等: 秋山ら、特願2008-011540

図表


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