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主要研究成果 6

日本における導入前雑草リスク評価法の構築

[要約]
新たに日本へ導入される植物を対象に、日本で雑草化する植物とそうでない植物を判別する手法をオーストラリア式雑草リスク評価法 を基に構築しました。本評価法で雑草と判別された植物を導入しないことで、雑草害を未然に防ぐことに役立ちます。
[背景と目的]
食料生産や観賞等を目的に導入される外来植物は、利益をもたらしてくれる反面、雑草化し被害を生じる場合もあります。外来植物に よる被害が発生した後では、防除費用が膨大になるため、導入する前に雑草化の恐れが高い植物を予測し、導入を避けることが最も効率的な防除法です。そのた め、国際的に定評のあるオーストラリア式雑草リスク評価法を基に、日本に適用できる導入前雑草リスク評価法を構築しました。
[成果の内容]
 オーストラリア式雑草リスク評価法は植物に関する49の質問からなり(図 1 植物チェックシート)、雑草化しやすい植物には高いWeed Risk Assessment (WRA)スコアがつきます。日本にある259種の植物を専門家に雑草とそうでない植物に区分してもらい、この判断を真の値とし、WRAスコアでこの判断 が再現できるかを調べました。そのための分析方法として、スクリーニング法の能力を調べるためによく使われるReceiver Operating Characteristic (ROC)カーブ分析という方法を用いました。
 基準点より大きなWRAスコアを持つ植物を雑草と判別すると、基準点の決め方によって雑草でない植物が間違って雑草と判別される割合(A)と雑草が正し く雑草と判別される割合(B)の両方が変化します(図2)。 ROCカーブ分析は、その変化について、Aを横軸に、Bを縦軸にとって表し、適切な基準点を導く方法です。基準点として、ここでは雑草もそうでない植物も 同程度に良く判別する点を求めました。その結果、基準点はWRAスコア10となりました(図 3)。この値を基準点にすると、専門家が雑草と区分した植物の9割弱、雑草ではないとした植物の8割弱が本評価法で正しく判別できま した。
 このように、WRAスコアによって雑草化する恐れが高い植物の判別が可能です。10点を超えるスコアを持つ植物の導入を避けることで、外来雑草による被 害を未然に防ぐことにつながります。また、この評価法は世界的に広く使われているため、植物チェックシートの記入時に用いた情報を公開することで外来植物 情報の国際的な共有にも貢献できます。
本成果は文部科学省の科学技術振興調整費によるプロジェクト研究「外来植物のリスク評価 と蔓延防止策」による成果です。
リサーチプロジェクト名:外来生物生態影響リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 西田智子、山下直子((独)森林総合研究所)、浅井元朗、黒川俊二((独)農業・食品産業技術総合研究機構)、榎本敬(岡山大学)
発表論文等: Nishida et al., Biol. Invasions., 11:1319-1333 (2009)

図表

図表

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