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主要成果 3

農薬による環境リスクの大きさを計算する確率論的評価法

[要約]
水生生物に対する農薬の毒性の生物種毎のバラツキや、農薬の河川水中濃度の地域的なバラツキを解析し、農薬による環境リスクの大きさを計算するための確率論的評価手法を確立しました。本研究は効率的なリスク低減対策の策定に貢献します。
[背景と目的]
水田で使用される農薬は河川等の水域に流出しやすいため、水生生物に対するリスクを適切に評価し、その大きさを踏まえてリスク管理対策を考えることが必要です。環境リスクは曝露と毒性のバランスで決まります(図1)。しかしながら、曝露濃度は地域によって異なり、また毒性値は生物種によって異なるため、安全か危険かは一概に決めることはできません。そこで、このようなバラツキの程度を考慮して、確率論的に環境リスクの大きさを計算することを試みました。
[成果の内容]
水稲用除草剤のシメトリンを対象として、水生生物に対するリスクの計算を行いました。曝露と毒性の二つの要素のバラツキを解析することによりリスクの大きさを確率として表す、というのが計算手法のコンセプトです(図2)。ただし、すべての地域の曝露濃度やすべての生物種の毒性値を得ることは現実的には不可能ですので、それぞれのバラツキの程度を示す確率分布を推定することにより、リスクの大きさを計算しました。
曝露については、河川水中濃度を計算するシミュレーションモデルを基にし、水田面積や河川流量、農薬の普及率などの地域的なバラツキを考慮して曝露濃度の確率分布を推定しました(図3、茶色の曲線)。毒性については、文献から毒性試験結果を収集し、そのバラツキを確率分布として表しました(図3、青色の曲線)。曝露と毒性の二つの分布曲線の重なりの大きさが影響を受ける確率(リスクの大きさ)となり(図3)、これが0.3%と計算されました。この数字は、全国平均的に0.3%の生物種が農薬によって影響を受けているという意味であり、生物多様性に対する影響指標となります。
本研究の手法を応用すると、「農薬の使用量を減らす」「農薬の流出防止対策をとる」「より低毒性の農薬に切り替える」などのリスク低減対策をとった場合の効果を予測できます。例として、シメトリンの使用量を半減した場合と、使用量は減らさずに農薬の流出対策として除草剤散布後の止水期間を3日間から7日間へと変更した場合のリスクの大きさを、曝露分布の変化を計算することにより比較しました(図4)。このように、様々な状況におけるリスクの大きさを計算して比較することで、より効率的にリスクを減らす対策を選択することが可能となります。

リサーチプロジェクト名:有機化学物質リスク管理リサーチプロジェクト
研究担当者:有機化学物質研究領域 永井孝志
発表論文等:永井ら、日本農薬学会誌、33: 393-402 (2008)

図表1

図表2

図表3、4

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