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主要成果 16

有機物施用が及ぼす農地土壌への炭素蓄積効果を全国推定

[要約]
土壌中の炭素動態を計算するローザムステッド・カーボン・モデル(RothC)を日本の全農地に1km 解像度で適用することにより、堆肥の施用や二毛作による作物残渣すき込みが及ぼす土壌への炭素蓄積効果を、全国レベルで推定しました。
[背景と目的]
農地管理の工夫により土壌炭素量を増加させると、大気中のCO2を吸収した勘定になり地球温暖化の緩和に役立つため、各国はその効果を全国規模で把握することが求められています。そこで、土壌炭素の蓄積・分解を計算するRothCモデル(図1)を1kmメッシュ単位で全国の農地に適用し、堆肥や作物残渣の土壌への投入量を増やす仮想的なシナリオに基づき、土壌への炭素蓄積効果を推定しました。
[成果の内容]
農地が含まれる各1kmメッシュを、メッシュ内で最大面積を占める土壌統(土壌の分類単位)で代表し、0-30cmの単位面積当たり土壌炭素量(tC ha-1)の変化を、1990年を初期値として4つの仮想的シナリオに基づきRothCで25年間計算するシステムを開発し、各メッシュの農地面積をかけて土壌炭素量(tC)を全国集計しました(図2)。
シナリオは、A(有機物未投入シナリオ:最低限の作物残渣である根と刈株だけを投入)、B(堆肥投入シナリオ:堆肥としてすべての水田に1.0tC ha-1-1、水田以外の農地に1.5tC ha-1-1を投入)、C(水田二毛作シナリオ:現在の水田がすべて水稲単作と仮定したうえで、全ての水田で裏作に麦を作付し、麦の残渣として0.7tC ha-1-1を投入)、D(BとCの両方を実施)の4つを使いました(図3)。
その結果、Aシナリオと、B〜Dシナリオとの土壌炭素量の差を、B〜Dの活動が及ぼす土壌への炭素蓄積効果とした時、全国規模の総量は25年間でそれぞれ32、11、43MtCとなりました(図4)。
これを単位面積・1年あたりの量でみると、B~Cシナリオは25年平均でそれぞれ0.30、0.10、0.41tC ha-1-1で、IPCC第4次報告書など既往の報告による農地管理が及ぼす土壌への炭素蓄積効果(0.14〜0.24tC ha-1-1)と類似の値となりました。このように、RothCモデルと土壌の空間的分布データを結びつけた本システムは、日本の農地において有機物施用が及ぼす土壌への炭素蓄積効果を見積もるのに有効です。
本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響の評価と緩和及び適応技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:温暖化緩和策リサーチプロジェクト
研究担当者:農業環境インベントリーセンター 白戸康人、大倉利明、大気環境研究領域 横沢正幸、米村正一郎、生態系計測研究領域 坂本利弘、中井信(元(独)農業環境技術研究所)
発表論文等:Yokozawa et al ., Soil Science and Plant Nutrition, 56: 168-176 (2010)


図表1、2

図表3

図表4

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