農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 7

天敵昆虫ナミテントウの幼虫に対する農地周辺植生に生息するアブラムシの餌適性を解明

[要約]
アブラムシの天敵昆虫であるナミテントウの幼虫に対する、様々なアブラムシの餌適性を評価したところ、季節毎に異なる様々な在来または外来植物に寄生するアブラムシがナミテントウ幼虫の餌として適していることが分かりました。この結果は、害虫制御等の生物多様性機能の発揮に向けた植生管理のための基礎的情報として役立ちます。
[背景と目的]
近年、作物の受粉率の向上や農業害虫防除に果たす農地周辺植生の機能が注目されています。本研究で着目したナミテントウは作物害を起こす様々なアブラムシを捕食する天敵昆虫です。自然環境下でナミテントウは農地周辺に生息するアブラムシを捕食して成長・繁殖し、その後農地に飛来します。しかし農地周辺のどのような植生がナミテントウの成長に有利なのかについては分かっていませんでした。そこでナミテントウ幼虫に対する農地周辺に生息するアブラムシの餌適性とその寄主植物を解明することを目的としました。
[成果の内容]
関東東部の農業景観に見られる常緑樹林、落葉樹林、集落周辺の植栽木、農道沿いの草地、川沿いの林や草地、耕作放棄地などに生育する多様な寄主植物29種から、それらに寄生する26種のアブラムシを選抜し、孵化直後のナミテントウ初齢幼虫に餌として5日間与え、ナミテントウ幼虫の生存率・成長速度を調査することにより、各アブラムシの餌としての適性を評価しました(図1表1)。
初夏から秋の間でガマ、メマツヨイグサ、スダジイなど草本・木本、在来・外来の多様な寄主植物に寄生するアブラムシがナミテントウ幼虫の餌として適していることが分かりました(表1)。反対にナミテントウ幼虫の餌として適さないアブラムシの中にも在来・外来植物を寄主とする種が見られました。近年の耕作放棄地の増加等を背景に畑作地域で多く見られるセイタカアワダチソウに寄生するセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシは、ナミテントウ幼虫に対する餌適性の低いアブラムシの一つでした。
一般にアブラムシは特定の寄主植物との結びつきが強い(単食性や狭食性)と言われています。このため農地周辺の草刈りやその管理放棄等により変化する寄主植物に応じて、ナミテントウの餌となるアブラムシも変化します。本研究結果を踏まえると、農地で栽培されている作物を加害しないアブラムシのうち、ナミテントウ幼虫の餌として適している種の寄主植物を農地周辺に配置することで、害虫防除機能の向上を期待することができます。今回の成果は、季節に応じた農地周辺の植生管理を通じて生物多様性機能の活用を図る上での基礎的情報として役立ちます。

リサーチプロジェクト名:外来生物生態影響リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 加茂綱嗣、徳岡良則、インベントリーセンター 宮崎昌久
発表論文等:1) Kamo et al., Ecol. Res. 25: 1141-1149 (2010)


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