農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 14

水田、休耕田、河川における湿生多年草タコノアシの個体群動態に及ぼす除草剤の影響

[要約]
準絶滅危惧植物であるタコノアシは、水田、休耕田ともに、それぞれの管理を続けると消失しますが、耕作と休耕を転換すると存続します。河川では、除草剤の水中濃度のほとんどが存続可能な範囲に収まっており、増水による撹乱が中程度であれば存続します。
[背景と目的]
水田地帯には多くの湿生植物が分布しますが、水田で使用される除草剤の影響が懸念されています。そこで、準絶滅危惧種で除草剤への感受性が高い湿生植物であるタコノアシを対象として、代表的な水稲用除草剤であるベンスルフロンメチルの影響を組み込んだ個体群動態モデルを作成し、水田、休耕田、河川における存続可能性を評価しました。
[成果の内容]
タコノアシの各生活史段階に対するベンスルフロンメチルの影響試験を行い(図1)、個体群動態モデルを除草剤処理濃度別に作成して100年間の個体数変化を計算しました。
標準量のベンスルフロンメチルを連用する水田(処理濃度115μg/Lの個体群動態モデル)では、耕起と除草剤の影響で個体群が急速に消失します(図2)。不耕起で、除草剤を全く使用しない休耕田(無処理区の個体群動態モデル)でも、休耕を続けると自然遷移が進むことにより個体群は消失します。ところが、耕作と休耕を適度な間隔で転換すると100年後も個体群が存続するようになります。ただし、耕作期間を5年とした場合、休耕期間が1年では短く、10年では長すぎることに注意が必要です(図3)。河川では、増水による撹乱が中程度(平均して、毎年、個体数の3割〜5割が流される程度)であれば個体群は存続します。また、100年後の絶滅リスクが0.1未満であることを許容水準とすると、ベンスルフロンメチルの許容濃度は1.6μg/Lであることがわかりました(図4)。これまでの報告では、ほとんどの河川がこの許容範囲に収まっており、河川におけるベンスルフロンメチルの影響は無視できるレベルであると評価されました。
このように、湿生植物を水田地帯で保全するためには、水稲作と休耕の転換や中程度の増水撹乱を必要とすることが明らかになりました。この成果は、水田地帯で生物多様性の保全を行う際には、除草剤の直接的な影響も撹乱のひとつとして捉え、個体数が一時的に減少するような中程度の撹乱の継続に配慮した管理が有効であることを示しています。このことは、水田ビオトープを用いた自然再生を実施する際にも留意する必要があります。

本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:水田生物多様性リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 池田浩明、相田美喜
発表論文等:1) Luo, Ikeda, Bull. Environ. Contam. Toxicol., 75: 382-389 (2005)


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