農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

普及に移しうる成果 3

イネ群落内の微気象を捉える自立型気象観測パッケージ「MINCER」

[要約]
本パッケージはイネ群落内の気温と湿度の観測を簡単に行えるように開発した気象観測装置です。電源の確保や配線といった煩わしい作業は一切不要で、水田に置くだけですぐに観測を始められます。イネの高温生育障害の詳細な解析に役立ちます。
[背景と目的]
近年、気候変動に伴うイネの高温生育障害が問題になっています。不稔や登熟障害のように穂に関連した高温ストレス現象の発生実態を正確に把握し、対策技術の開発を進めるには、感部である穂の温度(穂温)を指標にすることが最適ですが、測定が非常に困難です。一方、一般気象としての群落外の気温は穂温とは異なる場合が多く、詳細な解析を行うには穂温により近い指標が求められます。そこで、群落外気温と穂温との間に介在し、穂温の決定に大きく関わる気象要素である穂周辺の気温および湿度に着目し、これらを精密かつ簡便に観測できる自立型の気象観測パッケージを開発しました。
[成果の内容]
「MINCER (Micrometeorological Instrument for Near Canopy Environment of Rice)」は、イネの群落内の気温および湿度を精密かつ簡便に観測できる装置です。茎葉により風が遮られるイネ群落内でも正確に観測を行えるように強制通風式シェルターを採用しており(図1)、温湿度センサーを格納した通風管内は太陽電池と充電池で駆動するファンにより常時通風されます(図2)。 群落内の任意の高度で測定できるよう、装置は高さを調節できる三脚に架装されています。また、装置が測定対象領域に入射する日射を遮って微気象条件を乱すことのないよう、測定対象領域の空気は横向きの通風管で抽出されます。通風管を通過して昇温した測定後の排気は、群落内の環境を乱さないように群落上に排出されます。 内蔵する充電池は、晴天の日中には天面に装備する太陽電池で充電され、夜間も継続してファンを駆動します。日射が弱い条件では通風速度を自動的に低下させることで省電力化し、完全充電後は曇天で発電が停止しても2昼3夜の間連続して動作可能です。 イネ群落内の微気象観測においてはこれまで、水田のような泥濘地での測器の設置やファンの電源の確保に多大な労力を要することが大きな問題でした。また、測器の設置には複雑な配線作業が必要で、気象観測の専門家以外にとっては難しいことも問題でした。これらの問題を解消するため、MINCERはイネ群落内での気温および湿度の観測に必要な機能をすべて取り込んだうえで、扱いやすいようにパッケージ化しました。そのため煩わしい配線作業は一切必要なく、水田に置くだけで簡単に観測を始められます(図3)。 このようにMINCERは、近年大きな問題となっているイネの高温生育障害の克服に取り組んでいる作物栽培の研究者や普及指導員が自ら機動的に活用できるツールとして、イネの気象生態反応の理解を深化させるうえで大きく貢献することが期待されます。

リサーチプロジェクト名:気候変動影響リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 福岡峰彦、吉本真由美、長谷川利拡
発表論文等:1) Yoshimoto et al., Proceedings of MARCO Symposium 2009, W2-09 (2009)
2) Fukuoka et al., Proceedings of ISAM2011, p.135 (2011)


目次へ戻る   このページのPDF版へ