農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 17

国際観測ネットワークでイネの高温障害を解明する

[要約]
世界で温暖化による被害が顕在化しつつあるイネの高温障害に対処するため国際観測ネットワーク(MINCERnet)を構築しました。MINCERnetは、共通の手法で水田微気象や高温障害の実態を把握することにより、その原因究明や正しい影響評価に役立ちます。
[背景と目的]
世界のコメ生産地で温暖化によるイネの高温障害の激化が懸念され、現地水田の温湿度環境と高温障害の関係を正確に把握することが求められています。しかし、水田内の微気象を正確に測定することは気象観測の専門家以外にとって難しく、また最寄りの気象観測所等による測定値とも異なるため、世界の高温障害発生の環境要因を解明することができませんでした。そこで、精密かつ簡便に微気象を測定できる装置を用い、世界共通の手法で水田微気象や高温障害の実態を把握する国際ネットワークを構築しました。
[成果の内容]
世界のコメ生産地での高温障害の実態を把握するため、国際的な水田観測ネットワーク(MINCERnet)を構築しました。水田微気象の測定には、精密かつ簡便に水田内の気温と湿度を測定できる自立型気象観測パッケージMINCER(研究成果情報 第27集)を用いました。また、国により異なっていたイネの高温障害の調査方法を統一しました。2010年現在のMINCERnet参加国は、世界有数のコメ生産国であるインド、スリランカ、ミャンマー、中国、フィリピン、台湾、アメリカおよび日本の8カ国です(図1)。 これまでの調査から、気候の違いによって、イネの出穂期や登熟期における水田での湿度レベルや気温の日較差、夜温などが大きく異なることがわかってきました(図2)。これらはイネの穂温や生殖プロセスに関わる重要な要素で、MINCERnetによって初めて多国間の定量的な比較が可能になりました。 また、現地の最寄りの気象観測点は一般に水田地帯には設置されていないため、水田上より気温が高く観測される場合が多いことがわかります(図3)。さらに、イネの穂周辺の気温は水田上の気温より低いことが多く、その差は地域により異なることもわかりました(図3)。このようにMINCERnetによって、各国共通の手法を用いることでイネの高温障害に直接関わるイネの穂周辺の気温・湿度の正確な測定が可能となり、さらに穂温推定モデル(農業環境研究成果情報 第22集)を併用することで穂温の推定も可能となるため、今後、高温障害の原因究明や温暖化影響の高精度評価に貢献することが期待されます。

本研究の一部は、農林水産省委託事業「食と農の安全確保のための多国間研究交流ネットワーク事業」による成果です。
研究担当者:大気環境研究領域 吉本真由美、福岡峰彦、長谷川利拡、松井勤(岐阜大)、他7カ国の共同研究者
発表論文等:1) Yoshimoto et al., Proc. of MARCO symposium 2009, W2-09 (2009)
2) Yoshimoto et al., Texas Rice, August 2010, Volume X Number 6, 3-6 (2010)
3) Yoshimoto et al., Abstract of ISAM2011, p.136 (2011)


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