農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 19

イネ生育期間中のCO2・温度上昇は水田からのメタン発生量を大幅に増加させる

[要約]
「未来の水田」を実際の農家圃場に模擬した世界初の実験を行い、約50年後に想定される高CO2(+200ppm)・温暖化(+2℃)環境下では、水田からのメタン発生量が現在よりも約80%も増加する可能性があることを明らかにしました。
[背景と目的]
水田は強力な温室効果ガスであるメタンの主要な発生源の一つです。地球の気候変化を予測するためには、現状のみならずメタン発生量を将来にわたって推定することが必要です。本研究は人間活動によってもたらされている大気CO2の増加や地球温暖化が、水田からのメタン発生量に及ぼす影響を把握することを目的としました。
[成果の内容]
およそ50年後に想定される大気CO2濃度(約580 ppm)と温暖化環境(通常温度区と比べて水・地温を2℃上昇)を模擬したFACE注)実験水田において2カ年(2007-2008)にわたりメタン発生量を測定し(図1)、現在の環境と比べてメタン発生量が約80%も増加することを明らかにしました(図2)。これは気候変化が水田からのメタン発生の増加を通して、さらなる温暖化を引き起こす「正のフィードバック」効果の一端を明らかにしたものです。
これまでの知見通り、高CO2はイネの光合成促進と根圏への有機物供給量を増やすことでメタンを増やすと考えられました。一方、+2℃の水・地温の上昇はメタン発生量を40%も増加させました(図2)。その要因を解析したところ、i) 生育前半は土壌の酸化容量を超える有機物分解が加温により大幅に増えたこと(図3)、ii) 生育後半は加温がメタンの基質となるイネ根の老化・分解を促進すること、が重要なメカニズムであると示唆されました。これらの成果は水田からのメタン発生量予測と将来の気候変化予測を行う上で有用な知見です。

本研究は環境省地球環境保全等試験研究「高CO2濃度・温暖化環境が水田からのメタン発生に及ぼす影響の解明と予測」による成果です。
リサーチプロジェクト名:温暖化緩和策リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 長谷川利拡、常田岳志、程為国(現:山形大学)、安立美奈子(現:(独)国立環境研究所)、物質循環研究領域 麓多門、片柳薫子(現:(独)国際農林水産業研究センター)、松波寿典(秋田県農林水産技術センター)、松島未和(千葉大学)、中村浩史((株)太陽計器)、大川原佳伸((独)農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センター)、鮫島良次(同左)、岡田益己(岩手大学)
発表論文等:Tokida et al., Biogeosciences, 7: 2639-2653 (2010) 注)FACEはFree-Air CO2 Enrichment(開放系大気CO2増加)の略。


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