農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 31

「谷津田」に代表される枝流水田の分布状況の空間指標としての役割

[要約]
「谷津田」のような幅の狭い枝流水田の分布状況を、GIS(地理情報システム)手法により地図データから全国スケールで把握しました。この分布状況は、周辺の土地利用状況などとの関係から農業生態系の変化を示す空間指標として利用可能です。
[背景と目的]
「谷津田」(図1)は、農業生産の場であると共に、水域、樹林、草地といった複数の異なる環境を必要とする生き物にとって重要な生息環境を提供しています。こうした枝流の水田が、全国的に減少していることが懸念されることから、枝流水田の全国分布状況を把握するとともに、周辺の土地利用状況や耕作放棄の進行状況などとの関連性を分析し、農業生態系の変化についての空間指標として役立てることを試みました。
[成果の内容]
幅約100m以内の狭幅水田域を「枝流水田」と定義し、これを地図データから抽出するGIS手法を、二重線の幅を検知する技術を応用して開発しました。その手法を用いて、環境省現存植生図の水田から全国の枝流水田を抽出し(図2)、農林業統計の農業集落のうち、枝流水田が多い集落を示しました(図3)。 「谷津田」の一つの特徴は樹林地と水田が接している状態とされています。枝流水田は、面積では全水田の約11%にすぎませんが、水田周長距離では全水田の33%、水田と接する樹林との接長距離では、全水田の約44%を占めていました(表1)。農業地域別に見ると、もともと狭い水田が多い中山間地域に加え、都市的農業地域及び平地農業地域でも水田-樹林接長距離全体に占める枝流水田の割合が高い傾向にありました。地方別では、「谷津田」という言葉の発祥地である関東地方で樹林-水田接長距離の約53%を枝流水田が占めました(表1)。 次に、枝流水田面積に対する耕作放棄地面積(以前が田の場合)の比率を全国の集落を対象に計算しました(図3)。この値を枝流水田の耕作放棄プレッシャーの指標として、枝流水田面積が50%以上の集落を対象に集計すると、四国や九州の都市地域、関東の平地地域と山間地域で比較的高い値を示しました(表2)。 枝流水田は面積が小さいにもかかわらず、水域と樹林が近接する、生物にとっての生息環境となる地帯を広く提供していることが定量的に示されました。一方、耕作放棄地の多い集落に分布している場合もあることが示唆されました。このようなGIS手法に基づく空間指標は、現状の把握とともに、狭幅水田域の耕作放棄を防止し、農村景観と生物多様性を保全する施策のターゲット地域を選定するために役立ちます。

リサーチプロジェクト名:農業空間情報リサーチプロジェクト
研究担当者:生態系計測研究領域 デイビッド・スプレイグ
発表論文等:1) スプレイグ、岩崎、システム農学、23: 33-40 (2007)
2) Sprague et al., Int. J. Geograph. Inf. Sci., 21: 83-95 (2007)


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