農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 36

微地形区分による農地の精密土壌図の作成

[要約]
群馬県片品村扇状地に広がる普通畑において、地形解析により微地形の影響を反映した精密土壌図を作成しました。斜面の尾根部と谷部、さらに造成履歴から三区分された微地形にそれぞれ特徴的な土壌が対応することが分かり、土壌管理の効率化に貢献します。
[背景と目的]
中山間地域などの傾斜地では、侵食や人為的な影響により、ほ場毎に土壌特性が異なる場合が多くあります。現在公表されている5万分の1土壌図では、この違いを判別できないため、土壌情報を作物栽培管理に活用しきれていません。そこで、土壌情報の作物栽培管理への活用を目的として、夏秋ダイコンの特産地である、群馬県片品村を代表する扇状地を対象とし、微地形解析による精密土壌図を作成しました。
[成果の内容]
本地域の特徴的な土壌母材である榛名二ツ岳軽石の堆積の厚さは等層厚線図から約30 cmです。侵食や人為的影響の少ない基準断面として、扇状地上部のカラマツ林を調査し、軽石層が32cm堆積していることを確認しました。土壌分類(農耕地土壌分類第3次改訂版)を適用すると腐植質火山放出物未熟土に区分されました(図1図2)。
地理情報システム(GIS)ソフトウェア(TNTmips)を用いて、10mメッシュデジタル標高データ(Terrain)から尾根線と谷線を作成し、その距離の差によって尾根・平坦・谷という三つに微地形区分を行いました。現地調査により、造成履歴が確認されたところは造成区としました。
その結果、それぞれの微地形区分に対応した土壌が存在することが分かりました。すなわち、尾根部では、侵食や深耕などの影響により軽石層の厚さが薄く、軽石が表層に多く混入するため腐植が少なく、普通火山放出物未熟土に区分されました。谷部では、表層の厚さが侵食に伴う再堆積や均平化などで厚く、腐植質火山放出物未熟土に区分されました。 区画整理などに伴い造成されたほ場では、表層が軽石層や埋没腐植層との混層となっていたり、本来は下層にあった褐色ローム層によって構成され、リン酸吸収係数が大きい普通黒ボク土(造成相)に区分されました(図2表1)。
ほ場の区画単位で土壌区分の判別が可能となる1/5000縮尺の精密土壌図としてまとめられました(図3)。これにより、生産者や営農指導者が、ほ場単位の土壌区分を知ることができ、土壌特性に合った、より適正な肥培管理が可能となります。また、本地域と類似土壌が分布する群馬県北東部への技術適用性が高いと考えられます。

この研究成果は、群馬県農業技術センターとの共同研究によるものです。
リサーチプロジェクト名:環境資源分類リサーチプロジェクト
研究担当者:農業環境インベントリーセンター 大倉利明、神山和則、谷山一郎(現:研究コーディネーター)、戸上和樹(現:(独)農業・食品産業技術総合研究機構)、鹿沼信行・庄司 正(群馬県農業技術センター)、小林逸郎(群馬県利根農業事務所、現:群馬県農業技術センター)
発表論文等:1) 鹿沼ら、ペドロジスト、 54(2):73-82 (2010)
2) 群馬県 平成22年度ぐんま農業新技術


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