農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

NIAES施策推進上の活用が期待される成果(主要研究成果)

農地土壌の放射性物質濃度分布の把握

ポイント

・ 福島第一原発事故後、福島県など15都県の農地土壌の放射性セシウム濃度を測定し、空間線量率と放射性セシウム濃度の関係から調査地点以外の放射性セシウム濃度を推計。面的な広がりを地図として表示するとともに、濃度別の分布面積などの算出に利用できます。

概要

1. 福島第一原発事故後、福島県など15都県の3420地点の農地土壌を採取して放射性セシウム濃度を測定し、地図に表示しました。

2. デジタル農耕地土壌図や空間線量率の分布図から調査地点以外の放射性セシウム濃度を推計し、面的な広がりを地図として表示するとともに、濃度別の分布面積などの算出に利用できます。

研究(開発)の社会的背景と研究の経緯

2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故により、放射性物質による農地の汚染が福島県を中心に広範囲に発生しました。農地の放射性物質による汚染状況を把握することは、安全な農産物の供給に不可欠であるとともに、農地の除染など今後の営農に向けた取組を進めるために必要です。このため、放射性物質濃度が比較的高いと推定される宮城県から千葉県までの5 県の農地土壌の放射性セシウム濃度の分布状況を調査して8月に公表しましたが、その後、岩手県から静岡県までの15都県の農地において、土壌を採取し放射性物質の濃度を測定することにより、汚染状況の面的な分布の広域的かつ詳細な把握を目指しました。

研究の内容・意義

1) 2011年11〜12月に岩手県、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県および静岡県の農地土壌をライナー付き土壌試料採取器 *1 で採取し、0〜15cm 深さの土壌の I-131、Cs-134、Cs-137 濃度についてゲルマニウム半導体検出器を用いて測定し、測定値については 2011年11月5日を基準日として補正しました。

2) 農地土壌の放射性セシウム(Cs-134+Cs-137)濃度と農地上の空間線量率 *2 との間には一定の相関関係が見出されたことから、空間線量率から農地土壌の放射性セシウム濃度を推計する回帰式を土壌や土地利用ごとに10に類型化して作成しました(図 1)。この回帰式、放射性セシウム濃度の実測値データ、(独)農業環境技術研究所が2001 年の土地利用にもとづいて作成したデジタル農耕地土壌図 *3 および文部科学省が作成した航空機による空間線量率分布図(図 2)を用いて、調査地点以外の農地土壌の放射性セシウム濃度分布を推定しました(図 3)。

3) その結果、農地土壌の放射性セシウムは福島第一原発から北西へ向かって 10,000 Bq/kg を超える高い濃度が分布し、さらに福島県中通りの南西部から栃木県中〜北部と宮城県南部へ向かって 1,000 Bq/kg を超える濃度の広がりをみせるとともに、ホットスポットと呼ばれる局所的に放射能濃度の高い場所が散在し、単純な同心円状を示していないことが明らかとなりました。また、岩手県南部、宮城県中部〜北部、茨城県、栃木県南部、群馬県および千葉県においては概ね 500 Bq/kg 未満ですが、山間部や平野部で部分的に濃度の高いところがあることが分かりました。

活用実績・今後の予定

1) 除染の一つの目安となる農地土壌の放射性セシウム濃度 5,000 Bq/kg 以上の農地面積は約 8,900 ha と算定されるなど、濃度の分布の傾向把握、作物の吸収抑制対策や除染を必要とする市町村別の農地面積の推定、また土壌分類ごとの放射性セシウム濃度の分布といった除染方法の適用範囲の推定などが可能となり、農林水産省や環境省で活用されました。

2) 詳細については平成24年3月23日に農林水産省からプレスリリースされ、放射性セシウムの分析値および各県別の分布図と福島県の農地土壌の放射性物質濃度分布推定図については以下のサイトから閲覧できます。
http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/120323.htm

3) 今後は、調査地点の一部について、毎年度、農地土壌の放射性セシウム濃度を測定し、農地土壌放射性セシウム濃度分布図を更新していきます。

予算: 文部科学省委託プロジェクト:放射能調査研究「農地土壌等の放射性物質の分布状況等の推移に関する調査」(平成23年度)等

問い合わせ先など

研究担当者: (独)農業環境技術研究所:農業環境インベントリーセンター

研究員    高田 裕介
TEL 029-838-8272

用語の解説

*1 ライナー付き土壌試料採取器: 直径5cm、深さ30cm まで、円筒状で土壌を採取できる装置。内部に透明樹脂製円筒(ライナー)を装着できるので、採取後ただちに試料を取り出すとともに、放射性物質の汚染を最小限にすることができる。

*2 空間線量率: 空間の単位時間当たりの放射線量で単位は μSv/h で表す。

*3 デジタル農耕地土壌図: 日本の農耕地の土壌分布を視覚的に把握できるように農環研が開発したデジタルデータ。農業環境技術研究所のウェブサイト上の土壌情報閲覧システム(http://agrimesh.dc.affrc.go.jp/soil_db/) (システム更新作業のためサービス休止中 [2013年2月20日]) で参照できる。

図1 耕起農地における非黒ボク土と黒ボク土の空間線量率と土壌放射性セシウム濃度の関係

図2 調査地点のA)放射性セシウム濃度、B)デジタル農耕地土壌図、C)空間線量率分布図

図3 農地土壌の放射性セシウム濃度の実測値と分布推定図

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