農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

主要成果

栽培中のイネの光合成産物は水田から発生するメタンの主要な基質の一つである

[要約]
「栽培中」のイネの光合成産物が、水田土壌から発生するメタンの主要な基質の一つであることを、圃場条件下で初めて明らかにしました。また水・地温の加温処理によって増加するメタンの基質としても、イネ光合成産物の寄与が大きいことが分かりました。
[背景と目的]
水田土壌中で生成されるメタンは強力な温室効果ガスであり、主にイネの通気組織を通って大気へ放出されます。一方、メタンの基質として栽培中のイネがどの程度寄与しているかを圃場で調べた例はなく、メタンの由来に関する理解を妨げていました。本研究では開放系大気 CO2 濃度増加(FACE:Free-Air CO2 Enrichment)実験で用いた CO2 の炭素安定同位体比が外気と異なることを利用し、生成されたメタンに占める「栽培中のイネ光合成産物」の割合とその温度応答を、FACE 実験水田で調べました。
[成果の内容]
水田からのメタン発生における光合成産物の寄与を実際の圃場条件下で明らかにするため、岩手県雫石町の FACE 実験施設で試験を行いました(図1)。発生したメタン中の炭素のうち、栽培期間中のイネの光合成に由来する割合は、幼穂形成期で30%、出穂期以降では40%以上に達し、イネ根圏へ転流された光合成産物がメタンの重要な基質であることが明らかになりました。また FACE 試験区内で行った +2℃の水・地温加温処理でメタン発生速度は増加し、その際に光合成産物の割合も増加する傾向にあったことから、加温で増えるメタンの基質としても光合成産物が重要であることが分かりました(図2)。メタン生成に使われた光合成産物としては「根から土壌への滲出有機物」や「枯死根」が想定されます。加温処理によって出穂期以降の根量が減少したことから(図3)、加温が根の老化・分解を促進したことがメタン発生量増加の重要な要因であると推察されました。本研究成果は、メタン発生にかかわる炭素の流れを開放系の水田で実測した世界初の例で、発生予測モデルの精度向上を図る上で有用な知見です。

本研究は、環境省地球環境保全等試験研究費のプロジェクト研究「高 CO2 濃度・温暖化環境が水田からメタン発生に及ぼす影響の解明と予測」および農林水産省気候変動対策プロジェクト研究「農林水産分野における温暖化緩和技術及び適応技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:作物応答影響予測リサーチプロジェクト
研究担当者:物質循環研究領域 常田岳志、中島泰弘、麓多門 大気環境研究領域 長谷川利拡、程為国(現:山形大学)、安立美奈子(現:(独)国立環境研究所)、松島未和(千葉大学)、中村浩史((株)太陽計器)、岡田益己(岩手大学)、鮫島良次((独)農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センター)
発表論文等:Tokida et al., Glob. Change Biol., 17: 3327-3337 (2011)


図1 岩手県雫石町の農家圃場に設置された実験圃場

図2 生育ステージ・温度処理別にみたメタン発生速度、および、発生したメタンの基質に占める栽培中のイネ光合成生産物の寄与

図3 根のバイオマス量の推移

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