農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

主要成果

水田における環境保全型農業が生物多様性の指標生物に及ぼす効果は自然環境の影響を受け地域によって異なる

[要約]
水田における環境保全型農業が生物多様性に及ぼす効果について、指標生物であるアシナガグモ類の個体数と農法及び環境要因との関係を全国調査結果から統計的に解析し、農薬削減の効果が自然環境の影響を受けて地域間で異なることを明らかにしました。
[背景と目的]
全国各地で環境保全型農業への取り組みが進められていますが、その実施にあたっては生物多様性に及ぼす効果を確認しながら行うことが重要です。しかしこれまで、明確な指標が無かったこと、全国規模での検討が不十分だったことなどから、取り組み効果の地域による違いや、その要因は明らかではありませんでした。現在、環境保全型農業が生物多様性に及ぼす効果を評価するための指標開発が進められており、水田に生息するアシナガグモ類は、栄養段階が高く、農法の違いに対する感受性が高いことから有効な指標の一つと考えられています。そこで、全国各地の水田で調査されたデータを用いて、アシナガグモ類の個体数と農法や環境要因との関係を統計的に解析しました。
[成果の内容]
全国の水田で調査(2008〜2009 年、12 県230 ほ場、図1)されたアシナガグモ属クモ類の個体数(掬い取り法)について、各調査ほ場での農法(殺虫剤と除草剤の使用成分回数)及び環境要因(調査ほ場を含む10km 四方の年平均気温、夏期降水量、平均標高、半径250m 以内の森林面積率)との関係を統計的に解析しました。
農法と環境要因を説明変数としてアシナガグモ類の個体数を推定する統計モデルを構築し、各説明変数が個体数に及ぼす直接的影響および交互作用を検討した結果、殺虫剤や除草剤の成分回数が直接的な負の影響を、夏期降水量と森林面積率が直接的な正の影響を与えていました。また、夏期降水量は除草剤の低減が個体数を増加させる効果にも間接的な正の影響を及ぼしていました(図2)。このモデルを全国の水田分布地域(10×10km のメッシュ単位、北海道を除く)に当てはめて通常の農薬使用と無農薬の場合を推定し、両者を比較したところ、推定個体数に大きな地域差があることが明らかになりました(図3)。
これらの結果は、減農薬などの環境保全型農業の効果は気候などの自然環境の影響を強く受けて地域により異なることを示しています。したがって、指標生物を用いて環境保全型農業の効果を確認するためには、地域ごとに基準を設けながら行うことが重要です。

本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「農業に有用な生物多様性の指標及び評価手法の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:生物多様性評価リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 山本勝利、天野達也(現:英国ケンブリッジ大学)、田中幸一、楠本良延、浜崎健児(現:奈良女子大学)、馬場友希
発表論文等:1) Amano et al., Ecol Lett., 14: 1263?1272 (2011)


図1 調査実施水田ほ場の分布;図2 除草剤使用がアシナガグモ属個体数に及ぼす直接影響と環境要因との交互作用

図3 階層線形モデルにより統計的に推定したアシナガグモ属個体数

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