農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

主要成果

イネ品種間でカドミウムの動きの違いを観察する

[要約]
イネは品種間で異なるカドミウム集積を示します。この集積能の違いをポジトロン放出核種107Cd を使って、リアルタイムで可視化することに世界で初めて成功しました。
[背景と目的]
日本を含め、アジアの稲作地帯ではコメがカドミウムの主要な摂取源となっています。カドミウムはどのようにイネ体内を通って玄米に蓄積されるのか、その輸送システムの解明は、コメのカドミウム濃度を低減する上で、必要な情報です。そこで、私達は癌の早期診断等で使われているポジトロン断層診断のイメージングの原理を植物に応用し、カドミウム集積能の異なる品種を使って、体内でのカドミウムの動きをリアルタイムに可視化しました。
[成果の内容]
ポジトロン放出核種は放射性同位元素の一種で、原子の崩壊に伴ってポジトロン(陽電子)を放出するものです。(独)日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所のイオン照射研究施設では、ポジトロン放出核種であるカドミウム107(107Cd)の製造が可能です。107Cdを植物に投与すると、ポジトロンが電子と結合して消滅する際に透過力の高いγ線を放出し,この消滅γ線を検出器で計測してポジトロン放出核種の分布を画像化することで、リアルタイムに植物体内でのCd の動きを見ることができます。ポジトロンイメージングシステム(positron-emitting tracer imaging system; PETIS)の概要を図1に示しました。
土耕栽培で玄米のCd 集積量に差のあるイネ品種を利用して、PETIS による107Cd の動きの違いを観察しました。各品種を水耕栽培し、その根に107Cd を投与したところ、10 分以内に根へのCd 集積が見られました(図2)。高集積品種(図中D・E・F)は時間と共に根のCd 濃度が薄れ、葉鞘基部へと移行していくのに対し、低集積品種(図中A・B・C)は根に高濃度で留まる様子が観察できました。
低集積であるコシヒカリと、高集積であるJarjan 由来の高Cd 遺伝子をコシヒカリに導入した系統(高Cd 系統)との比較では、穂へのCd 集積に明らかな違いが認められました(図3)。高Cd 系統(図中B)では時間と共に穂へのCd 集積が著しく高まりました。それに比べ、コシヒカリ(図中A)の穂への集積はゆっくりでした。これらの結果は、農環研のホームページ内で動画として見ることができます。
(URL: http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/movie/cd_in_rice.html)。
本システムにより、イネ品種間でのカドミウムの挙動の違いをリアルタイムに観察することが可能となり、吸収や集積に関わる遺伝子機能を明らかにする上で、重要な情報が得られます。本研究の成果は、農環研と原子力機構との共同研究によるものです。

本研究の一部は、生物系特定産業技術研究支援センターのイノベーション創出基礎的研究推進事業「食の安全を目指した作物のカドミウム低減の分子機構解明」による成果です。
リサーチプロジェクト名:有害化学物質リスク管理リサーチプロジェクト
研究担当者:土壌環境研究領域 石川覚、井倉将人、安部匡、倉俣正人(独)日本原子力研究開発機構 鈴井伸郎、石井里美、河地有木、藤巻秀
発表論文等:1) Ishikawa et al., BMC Plant Biol., 11:172 (2011)


図1 ポジトロンイメージングシステム(PETIS)の概要

図2 根のカドミウム吸収イメージング

図3 穂のカドミウム集積イメージング

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