農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)

主要成果

酵素と基質の親和性を利用した簡単な生分解性プラスチック分解酵素精製法

[要約]

酵素とそれが分解する物質(基質)とは非常に結合しやすい性質(親和性)があります。この性質を利用して、微生物の培養液中の生分解性プラスチック(生プラ)分解酵素を生プラに結合させて簡単に精製する方法を考案しました。

[背景と目的]

微生物の働きによって最終的に水と二酸化炭素に分解される生プラ製農業資材は環境に優しく回収の労力を軽減できる資材として普及が期待されています。しかしながら、温度や水分などの周りの環境によって分解速度が影響を受けやすく、思ったほどに分解が進まないことがあります。そこで分解促進に微生物が作る生プラ分解酵素を利用することが考えられています。酵素を有効に利用するには、よけいな夾雑物を含まない精製された酵素サンプルを用いてその性質をよく調べなければならず、そのため初めに酵素の精製法を確立する必要があります。

[成果の内容]

図1 に精製法の概要を示します。生プラ分解酵素を作る微生物の培養液と生プラのエマルジョンを混ぜます (step 1)。すると、酵素と基質の親和性によって、生プラ分解酵素だけが生プラのエマルジョンと結合します (step 2)。この状態で遠心機に掛けると酵素は重たい生プラエマルジョンに結合したまま試験管の底に沈みます。他のタンパク質などの夾雑物はエマルジョンと結合しないので沈まずに上澄みに残ります (step 3)。この上澄みごと夾雑物を除きます (step 4)。試験管の底に残った生プラ分解酵素と生プラエマルジョンの結合物に緩衝液を加えて混ぜると (step 5)、生プラ分解酵素は本来の働きに従って生プラエマルジョンをどんどん分解していきます (step 6)。エマルジョンが全て分解されて溶液が透明になったら透析してエマルジョンの分解産物を取り除きます。これで緩衝液の中には純粋な生プラ分解酵素だけが残ります (step 7)。元の培養液中の雑多なタンパク質の中から生プラ分解酵素が高純度に精製されていることが電気泳動で確かめられました(図2)。収率も65%と高く、また、他の2種の微生物の生プラ分解酵素もこの方法で精製できることを確認しました。

一般に、酵素の精製は色々なクロマトグラフィーを組み合わせ、条件検討に多大な労力と時間を割いてようやく成し遂げられるものですが、ここで紹介した方法では「緩衝液に溶けない基質を分解する」という生プラ分解酵素の特徴に注目することで意外なほど簡単に精製に成功しました。この方法を利用することで純度の高い酵素が簡単に手に入り、微生物やその酵素を用いた生プラ分解促進技術開発のスピードアップが期待できます。

リサーチプロジェクト名:情報化学物質・生態機能リサーチプロジェクト

研究担当者:生物多様性研究領域鈴木 健、生物生態機能研究領域 坂本洋典(現:玉川大学)

発表論文等: 1) Suzuki et al., Appl Microbiol Biotechnol, DOI 10.1007/s00253-012-4595-x (2013)

図1 酵素と基質の親和性を利用した生プラ分解酵素精製法の概要

図2 酵素と基質の親和性を利用した精製法で精製した生プラ分解酵素の電気泳動像

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