農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)

主要成果

イネでは第 I 節位で穂へのカドミウム輸送が制限されている

[要約]

イネのカドミウム吸収機構を解明するため,シンクロトロン放射光源マイクロビーム蛍光X線分析法を用いて第 I 節位の元素分布を観察しました。従来のコシヒカリでは維管束内でカドミウムが停滞し,穂への輸送が制限されていることがわかりました。

[背景と目的]

コメのカドミウム濃度を低減するためには、稲穂への輸送経路上でのカドミウムの挙動を知ることが重要です。穂と止葉への分岐点にある第 I 節位では、行先の異なる維管束が隣りあって存在しています。そこで、第 I 節位の維管束におけるカドミウムおよび輸送経路が類似するとされている亜鉛と鉄の分布を可視化し、比較しました。

[成果の内容]

イネの第 I 節位は、根から吸収されたさまざまな元素が穂に向かうか、止葉に向かうか、節に留まるかが決まる分岐点です(図1)。根から吸収され上昇してきた元素が穂に向かうためには、止葉に向かう維管束(肥大維管束)から穂に向かう維管束(分散維管束)に柔細胞橋を介して輸送される必要があります(図2)。

カドミウムを多く含む土壌で従来のコシヒカリを栽培し、出穂から1週間後、第 I 節位の 50 μm の厚みの横断切片を作成しました。大型放射光施設 (SPring-8) においてシンクロトロン放射光源マイクロビーム蛍光X線分析装置を利用し、2 μm 径のX 線マイクロビームで切片の表面を2 μm ごとに走査することで、カドミウムおよびカドミウムと類似の輸送経路が推定されている亜鉛と鉄の分布を可視化し、挙動を比較しました。

第 I 節位の横断面では、亜鉛や鉄が柔細胞橋に多く存在しているのに対し、カドミウムは肥大維管束の内部にとどまっている割合が高い傾向にありました(図3)。X線吸収スペクトルから、肥大維管束内部ではカドミウムが硫黄と結合していることもわかりました(図4)。ポジトロン放出核種を用いてリアルタイムにカドミウムの動きを可視化した実験により、従来のコシヒカリ穂へのカドミウム集積が高集積系統に比べて遅いことがわかっています(研究成果情報 第28集)。従来のコシヒカリでは、亜鉛や鉄は肥大維管束内に滞留せず効率的に穂に輸送されるのに対し、カドミウムは硫黄と結合した形態で維管束内部に停滞し、穂への輸送が制限されていると考えられます。

本研究は、生物系特定産業技術研究支援センターイノベーション創出基礎的研究推進事業 「食の安全を目指した作物のカドミウム低減の分子機構解明」、SPring-8 共同利用研究課題(2009B1137, 2010A1264 ) による成果です。

リサーチプロジェクト名:有害化学物質リスク管理リサーチプロジェクト

研究担当者:土壌環境研究領域 山口紀子、石川覚、安部匡、荒尾知人(現:農水省)、有機化学物質研究領域 馬場浩司、寺田靖子(高輝度光科学研究センター)

発表論文等: Yamaguchi et al., J. Exp. Botany. 63: 2729.37 (2012)

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