農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成25年度 (第30集)

施策推進上の活用が期待される成果(主要研究成果)
独立行政法人 農業環境技術研究所

茶草場の伝統的管理は生物多様性維持に貢献

ポイント

概要
  1. 農環研では、これまで谷津田周辺の裾刈り草地など、営農活動の一環として維持されてきた農地周辺の半自然草地(*1)と、生物多様性との関連性を調べてきました。
  2. 静岡県には、良質茶の生産のため茶草場と呼ばれる半自然草地を維持している地域があり、様々なタイプの茶草場があります。
  3. 植生調査の結果、長期間にわたり、土地改変を行わず、毎年刈り取りを行っている茶草場で、在来の草原性草本植物や希少種の種数、および植物の多様度指数(*2)が高い傾向にあるなど、生物多様性が維持されていることを明らかにしました。
  4. この研究は、静岡県農林技術研究所と共同で実施したものです。これらの結果は、2013年5月に、静岡県の茶草場農法(*3)を行う地域が世界農業遺産(*4)に認定されることに大きく貢献するとともに、世界農業遺産「静岡県の茶草場農法」推進協議会が推進する実践者認定制度による茶草場の維持・拡大にも寄与しています。

研究(開発)の社会的背景と研究の経緯

2010年に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)(*5)において、愛知目標(*6)が採択されました。その目標の一つとして「2020年までに農林水産業が行われる地域が生物多様性を確保するように持続的に管理されること」が掲げられています。我が国では、1880年代には草原が国土面積の30%以上を占めていたものの、現在では2%まで減少し、草原に依存する動植物が絶滅の危機に瀕しています。そのような中、静岡県では、良質な茶の栽培を目的として茶園にススキなどの敷草を施す農法『茶草場農法』が行われています。この茶草場には様々な植生があり、生物多様性の維持の観点から、その仕組みを明らかにする必要があります。

研究の内容・意義

活用実績・今後の予定

2013年5月30日、130年以上続く静岡県の茶草場農法を実践する地域が世界農業遺産に認定されました。本認定には5市町(掛川市、菊川市、島田市、牧之原市、根本町)が関与し、世界農業遺産「静岡県の茶草場農法」推進協議会が設置され、生物多様性の高い半自然草地として位置付けられる群落タイプの維持・拡大を目的とした実践者認定制度に取り組んでいます。また、茶草場の管理は、環境保全型農業直接支払支援交付金の地域特認取組(静岡県)「敷草用半自然草地の育成管理」として認定されています。これらの実績や活動には、本成果が積極的に活用されています。

今後は、生物多様性を維持するために最低限必要な面積や、刈り取りを含む管理方法と頻度などを明らかにするとともに、農業活動と動物相を含めた生物多様性との両立の方法について幅広く提示することを目指します。

問い合わせ先など

研究担当者:
独立行政法人農業環境技術研究所 生物多様性研究領域

主任研究員 楠本 良延
TEL 029-838-8245

用語の解説

その他

論文:

主な予算:

図1 茶草場の現状(静岡県掛川市東山地区)

写真1 現地で見られるさまざまなタイプの茶草場

表1 茶草場の分類(TWINSPAN)

図2 茶草場における在来種数に及ぼす環境要因の解析

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