農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

世界のコムギとコメの不作を収穫3か月前に予測する手法の開発

[要約]
全球作物収量データベースを用いて解析した統計モデルと短期気候変動予測モデルを組み合わせることで、収穫の3か月前に予測した気象値を用いて、栽培中のコムギとコメの豊凶を全世界の栽培面積の約2割 (コムギ18%、コメ19%) の地域で予測できることが分かりました。
[背景と目的]
近年、多くの国でコムギやコメなどの輸入量が増加しており、輸出国での不作やそれに伴う国際市場価格の上昇が、特に開発途上地域の低所得層の栄養状態を悪化させる一因となっています。世界の穀物生産の豊凶予測は、各国の備蓄量の調節や輸入先の選択などについての判断材料の一つとして利用できると期待されます。しかし、作物収量を全世界規模で予測する手法の開発は始まったばかりであり、現在の技術でどの程度予測可能かさえよく分かっていませんでした。
[成果の内容]
コムギとコメについて、収穫日までの3か月の気象観測値(気温と土壌水分量の前年差)と、当該年の収量と前年の収量との比(以下、収量比とする)を1.125度(約120km)メッシュで重回帰分析したところ、世界の栽培面積の30%(コムギ)と33%(コメ)で、収量比を有意に推定できることが分かりました(図1)。気象条件のみで作物の収量を統計的に有意に推定できる地域が、世界全体でどの程度あるのかを定量化できました。
次に、気候変動予測の不確実性も考慮した上で、どの程度世界の作物収量比を予測できるのかを見るために、(独)海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)の短期気候変動予測モデルで収穫3か月前に予測した収穫日までの気温と土壌水分量のデータを、得られた重回帰式に入力したところ、豊凶を予測し得る地域の過半で、観測された不作 (当該年の収量が前年よりも5%以上低下する場合) を再現(統計的に有意な程度で収量の変動を補足)できました(図2)。つまり、収穫3か月前の気候変動予測から不作を再現できた地域は世界の栽培面積の18%(コムギ)と19%(コメ)に相当しました。例えば、コムギでは、図3に示すように、オーストラリアの一部で、またコメではタイなどの一部で、収穫3か月前の予測で、収穫比を精度よく再現できました。つまり、現状において、全世界の約2割の地域の作物豊凶季節予測が可能なことを示しています。
本研究は、JSPS科研費 23880030と環境省地球環境研究総合推進費「気候変動リスク管理に向けた土地・水・生態系の最適利用戦略」による成果です。
リサーチプロジェクト名:食料生産変動予測リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 飯泉仁之直、横沢正幸 (現:静岡大学)、生態系計測研究領域 櫻井玄
発表論文等:1) Iizumi et al., Nature Climate Change, 3: 904-908 (2013)

図1 観測された気象条件から穀物の豊凶を精度良く推定できた地域

図2 予測された気温と土壌水分量から豊凶を再現できた地域

図3 季節予測によるコムギとコメの主要輸出国での豊凶再現性の例

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