農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

リモートセンシングによる植物群落クロロフィル量の高精度汎用評価モデル

[要約]
植物の生産力やCO固定力の広域的な診断・評価の鍵となる群落クロロフィル量の分布をリモートセンシングによって広域評価するための高精度かつ適用性の高い新たな評価モデルを開発しました。
[背景と目的]
植物群落のクロロフィル保有量は、作物の生産力や植物群落と大気のCO交換を支配する最も重要な生態系変量のひとつです。この群落クロロフィル量を評価するための適用性が高くかつ精度の高い手法の開発は重要な研究課題となっていました。そこで、4カ国5サイトで6種類の植物(イネ、コムギ、トウモロコシ、ダイズ、テンサイ、自然草地)について独立に取得されたデータセットを、総合的に比較解析し、ハイパースペクトル計測に基づく新たな簡易・高精度かつ適用性の高い評価モデルを追究しました。
[成果の内容]
  1. 4カ国(日・仏・伊・米)の5サイトで6種類の植物群落について、地上および航空機センサから得られたハイパースペクトルデータを用いて、群落のクロロフィル量(CCC)推定法を探索し、その精度や適用性を総合的に検討しました(図1)。
  2. 群落のCCCを推定する有力モデルを探索するため、イネ群落の計測データ(つくば)に基づいて、多波長データを用いる多変量回帰法(iPLS法等)および少数波長を選定して用いる分光指数法(反射率Rやその微分値Dの差や比を用いるRSIなど)によって、推定力を総合的に解析しました。その結果、多変量回帰法ではiPLSモデルが、分光指数法ではRSI(R815,R704)を用いるモデル(図2)が、それぞれ最有力モデルとして選定されました。
  3. 選定したモデルを全ての植物群落データに適用し、これまで世界で提案された主要モデルを比較検証しました。その結果、RSI(R815,R704)は、NDVIやCI red-edge等過去に提案された評価モデル(32種)や多変量回帰モデルよりも精度、線形性、感度、簡易性において総合的に優っていることが分かりました(図3)。結果の妥当性は群落反射物理モデルを用いたシミュレーションにより裏付けられました。このモデルは簡易なだけでなく、正規化により測定ノイズの影響を軽減する効果があり、予測精度と適用性に優れています(図4)。
    CCC = 0.325 * RSI(R815,R704) - 0.358
  4. 現在、世界各国でハイパースペクトルセンサを搭載した衛星の打ち上げが計画されており、本研究で得られた予測モデルは、今後、作物生産性や自然植生の劣化などを広域的に把握する上で、幅広く活用されることが期待されます。
本研究の一部は文部科学省宇宙利用促進調整委託費「食糧-環境インテリジェンスのための生態系リモートセンシング」による成果です。
リサーチプロジェクト名:農業空間情報・ガスフラックスモニタリングリサーチプロジェクト
研究担当者:生態系計測研究領域 井上吉雄
発表論文等:1) Inoue et al., Remote Sens. Environ., 126: 210-221 (2012)

図1 群落クロロフィル量の異なるイネ群落のハイパースペクトルデータおよび分光反射指数の定義

図2 群落クロロフィル量の予測力マップ/図3 世界で提示された主要な予測モデルの総合比較による新規モデルの優位性/図4 新規開発モデルによる群落クロロフィル量の予測

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