農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

ガスフラックスの長期観測により、国内採草地の温室効果ガス収支をはじめて評価し、一酸化二窒素の排出係数を算定

[要約]
採草地への化学肥料と堆肥の併用により、化学肥料のみを施用する場合に比べて、温室効果ガスの放出量を削減できることを明らかにしました。さらに、化学肥料由来の一酸化二窒素(NO)の排出係数は、国内の畑地の既往値よりも大きく、気候条件によって異なることを示しました。
[背景と目的]
わが国の耕地面積の 13.5%(平成25年度農林水産統計)を占める牧草地の温室効果ガス発生・吸収量に関する知見は水田や畑地に比べて少なく、特に、採草地(牧草を収穫するために管理された草地)での長期観測データはほとんどありません。そこで、国内の主要畜産地域にある黒ボク土壌の採草地4地点でガスフラックスの長期観測を行い、温室効果ガス収支を評価し、NO排出係数を算定しました。
[成果の内容]
採草地の温室効果ガス収支は、炭素収支(炭素の蓄積または放出量)とNO発生量で構成され、前者は草地による二酸化炭素吸収量(純一次生産量、NEP)、収穫による炭素持ち出し量、堆肥による炭素投入量で決まります。化学肥料のみを施用した採草地の炭素収支は、いずれの地点でも炭素の放出となりました。一方、化学肥料と堆肥を併用する施肥管理を実施した採草地では、炭素収支は大きく改善され、3地点で炭素の蓄積となりました(図1)。堆肥の併用による炭素収支の改善により、N2O発生量が小さな北海道の2地点では、温室効果ガス収支が吸収となり、本州・九州の2地点でも、化学肥料のみを施用した場合に比べて、温室効果ガスの放出量が減少しました(図1)。以上の知見は、ガスフラックスの長期観測に基づいて、わが国の採草地の温室効果ガス収支と、家畜排泄物の堆肥としての草地還元の影響を評価した、はじめての研究成果です。
Oフラックスの観測値から算定した無施肥区からのNOの年間発生量と、化学肥料由来のNO排出係数(施肥窒素量に対するNOとして発生する窒素量の比)は、いずれも地域によって異なり、年平均気温および年降水量とともに増加する傾向が明らかになりました(図2)。また、化学肥料由来のNO排出係数は、ほとんどの地点で日本国温室効果ガスインベントリ報告書に採用されている畑地の値(0.62%)よりも大きな値でした。
これらの採草地の温室効果ガスに関する新たな知見は、わが国の温室効果ガスインベントリの精緻化に貢献できる成果です。
本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のための技術開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:農業空間情報・ガスフラックスモニタリングリサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 宮田明、平田竜一(現:(独)国立環境研究所)、間野正美(現:千葉大学)、森昭憲((独)農研機構・畜草研)、松浦庄司(同左)、波多野隆介(北海道大学)、清水真理子(同左)、有田敬俊((地独)道総研・根釧農業試験場)、松本武彦(同左)、三枝俊哉(同左)、甲田裕幸((地独)道総研・中央農業試験場)、新美光弘(宮崎大学)、寳示戸雅之(北里大学)
発表論文等:1) Hirata et al., Agric. Forest Meteorol., : 177: 57-68 (2013)
2) Shimizu et al., Soil Sci. Plant Nutr., : 59: 69-86 (2013)

図1 施肥管理が異なる採草地の年間の炭素収支と温室効果ガス収支

図2 無施肥区からのN2O発生量と化学肥料由来のN2O排出係数

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