農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

穀粒を汚染するかび毒を分解する菌の分解酵素遺伝子の解明

[要約]
穀粒を汚染するかび毒のデオキシニバレノール(DON)、ニバレノール(NIV)を分解する微生物を霞ヶ浦湖水から分離し、この分解菌から DON を分解する酵素遺伝子を世界で初めて単離しました。
[背景と目的]
DON はムギ類の赤かび病原因菌が生産するかび毒で、コムギやオオムギなどを汚染する可能性があります。高濃度の DON に汚染された穀粒を人や家畜が摂取し続けると体重低下や免疫機能低下等の悪影響を引き起こす可能性があることから、ムギの栽培中の DON 汚染を防止し、低減する技術の開発が求められています。本研究では、自然環境下で広く DON 分解菌を探索し、その分解に関わる酵素遺伝子の単離を試みました。
[成果の内容]
  1. DON を資化する細菌を水圏から探索した結果、霞ヶ浦湖水から、既知の DON 分解菌の系統とは異なる、分解遺伝子が不明のSphingomonas属の分解菌(KSM1株)(図1)を分離しました。
  2. KSM1株はDONだけでなく、DONより毒性が強いといわれるかび毒ニバレノール(NIV)も分解しました。好気性のNIV分解菌としてはこれまで唯一の報告です。
  3. KSM1株から、DON分解に関わる酵素遺伝子を取得することに世界で初めて成功しました。この遺伝子は、シトクロムP450をコードしており、本菌の持つP450、フェレドキシン、フェレドキシン還元酵素からなるP450システムによって、DONが16-hydroxy-DONへと変換されることを明らかにしました(図2)。
  4. KSM1株のP450システムにより、DONから変換された16-hydroxy-DONは、DONに比べて、コムギ幼苗に対する生育阻害活性が著しく低下することが示されました(図3)。
本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:農業環境情報・資源分類リサーチプロジェクト
研究担当者:生物生態機能研究領域 伊藤通浩(現:早稲田大学)、農業環境インベントリーセンター 對馬誠也、生物生態機能研究領域 佐藤育男(現:名古屋大学)、小板橋基夫、吉田重信、有機化学物質研究領域 石坂眞澄、吉田慎一朗(東北大学)
発表論文等: 1) Ito et al., Appl. Environ. Microbiol., 79: 1619-1628 (2012)
2) 佐藤育男、伊藤通浩、化学と生物、51: 211-213 (2013)

図1 KSM1株の系統関係

図2 KSM1株のP450システムによるDONから16-hydroxy-DONへの変換

図3 コムギ幼苗の生育に対するDON分解産物の毒性

目次へ戻る   このページのPDF版へ