農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

栽培管理・土壌理化学性情報と土壌DNA情報を蓄積した 「農耕地eDNAデータベース(eDDASs)」

[要約]
全国の農耕地における土壌の理化学性や栽培管理情報に土壌抽出DNAに基づく生物性の情報を加えた「農耕地eDNAデータベース(eDDASs)」を開発しました。eDDASsでは、土壌中の生物に関する情報をDNAバーコード形式でみることができます。
[背景と目的]
作物の生育には土壌の様々な要因が複雑に関係しており、安定的な作物生産のためには、土壌の物理性や化学性だけでなく、土壌に生息する微生物の多様性等も併せた総合的な評価・診断が必要です。しかし、土壌微生物の大半は培養できず、その解析は困難でした。また、土壌は個々に性状が異なるため、的確な土壌診断を行うには、多くの調査データを利用できるシステムが必要でした。そこで、土壌から直接取り出した DNA (eDNA: environmental DNA) に基づく土壌の生物に関わる情報と、土壌理化学性の情報とを併せて蓄積し、誰でも利用できる「農耕地eDNAデータベース(eDDASs: eDNA Database for Agricultural Soils)」の開発を目指しました。
[成果の内容]
  1. 農耕地eDNAデータベース(eDDASs)(図1)には、これまで解析が困難であった土壌の生物性(細菌、糸状菌、線虫の種類)について、PCR-DGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)による16S及び18SrRNA遺伝子の部分領域をターゲットとしたDNAバーコード情報「全国22県31地点、約3,700件(2014年1月現在)」が登録されています。(URL: http://eddass.niaes3.affrc.go.jp/hp/index.html)。PCR-DGGE手法は異なるゲルで得られたDNAサンプル間での比較が難しいという問題がありましたが、土壌eDNA解析マニュアル(平成19年度主要成果)でデータを収集することで、eDDASsを用いてサンプル間の相互比較ができるようになりました。
  2. DNAバーコード画像はデジタル化され、多様性指数、バンドの数が自動的に表示されます(図2)。さらに、クラスター分析や多変量解析ができます。
  3. DNA情報以外に、採取地、採取者名、土壌理化学性(炭素・窒素・可給体リン量等)、栽培条件(作物名、肥培管理)等必須38項目を含む全68項目の情報を登録でき、様々な要因間の関係も解析できます。たとえば、登録者が異なる全国4カ所の黒ボク土を比較して土壌微生物相(細菌、糸状菌、線虫)や栽培条件のみならず地理的違いの影響を調べることができるようになるなど、自ら収集した情報にとどまらず、eDDASsに登録されたその他の情報を活用することで、より複雑な解析が可能になりました。
  4. eDDASsは、誰でも登録できるシステム(自動登録システム)となっており、全国の農耕地土壌に関する登録情報が自動的に増殖しますので、より幅広い活用や解析が期待されます。
本研究は農水省委託プロジェクト「土壌微生物相の解明による土壌生物性の解析技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:農業環境情報・指標リサーチプロジェクト
研究担当者:農業環境インベントリーセンター 對馬誠也、松下裕子、包 智華(現:東北大学)、丹羽理恵子、斉藤雅典(東北大学)、生物生態機能研究領域 吉田重信、生長陽子(現:東レ)
発表論文等:1) 包、對馬、土と微生物、63:39-44 (2009)
2) 松下ら、土と微生物、64:107-112 (2010)
3) Bao et al. M & E., 27: 72-79 (2012)
4) Bao et al. Can. J., Microbiol., 59: 368-373 (2013)

図1 農耕地eDNAデータベース(eDDASs)の検索画面

図2 検索したサンプルのPCR-DGGE画像の表示

目次へ戻る   このページのPDF版へ