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平成26年度主要成果

ヒ素をメチル化する根圏微生物の単離とその分子機構の解明
−稲に含まれるメチル化ヒ素の謎に迫る−

[要約]

亜ヒ酸をメチル化し、ジメチルアルシン酸(DMA)を合成する新規の放線菌を水稲の根圏から単離し、ヒ素のメチル化転移酵素遺伝子(arsM)を特定しました。本菌を水稲根圏に接種することで、水稲地上部の DMA 濃度が上昇することから、コメに含まれる DMA は根圏微生物由来であることが推察されます。

[背景と目的]

コメに含まれるヒ素化合物の主要な形態は、無機ヒ素(亜ヒ酸、ヒ酸)とメチル化ヒ素の一種であるジメチルアルシン(DMA)です。DMA は水稲根圏に生息する土壌微生物の代謝によって生成され、それを稲が直接吸収すると考えられていますが、未だ明らかになっていません。本研究では、水稲根圏からヒ素をメチル化する微生物を単離し、その作用機構を分子レベルで明らかにすることで、玄米に含まれる DMA の由来を解明しました。

[成果の内容]

高ヒ素土壌で栽培した水稲から根圏土壌を採取し、平板希釈法による菌の分離およびヒ素接種試験の結果から、亜ヒ酸をメチル化して DMA に変換する機能を有する GSRB54 株を単離しました。16S rRNA の解析結果、GSRB54 株は Streptomyces 属の新種(ジーンバンク Acc No. AB856548)であることがわかりました。さらに GSRB54 株から亜ヒ酸のメチル基転移酵素遺伝子(arsM)を単離することに成功し、これまで報告されている arsM 遺伝子とはアミノ酸配列において相同性の低い、新規の遺伝子であることがわかりました。本遺伝子を亜ヒ酸感受性の大腸菌で高発現させたところ、ヒ素耐性を示し(図1A)、さらに DMA やトリメチルアルシンオキサイドが生産されることから(図1B)、本遺伝子は亜ヒ酸をメチル化する能力があることが立証されました。亜ヒ酸を含む培地で無菌栽培した水稲根(播種後2週齢)に GSRB54 株を接種すると、茎葉部から DMA が検出されました(図2A)。これは GSRB54 株(図2B)によって生産された DMA を水稲が吸収したためと考えられます。arsM 遺伝子の機能は、亜ヒ酸に S-アデノシル−L-メチオニン(SAM)のメチル基を転位する酵素であることが知られているため、GSRB54 株も同様の分子機構を持つと推定しました(図2C)。本成果は稲に含まれる DMA の起源が、根圏微生物由来であることを初めて立証した研究です。

本研究はJSPS科研費23380044および農水省委託プロジェクト「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発(ヒ素・カドミ)」による成果です。

リサーチプロジェクト名: 有害化学物質リスク管理リサーチプロジェクト

研究担当者: 土壌環境研究領域 石川覚、倉俣正人(現:KYB)、安部匡、有機化学物質研究領域 高木和広、馬場浩司、片岡良太(現:山梨大学)、榊原風太、物質循環研究領域 浅野眞希(現:筑波大学)

発表論文等:1) Kuramata et al., Environ. Microbiol., doi:10.1111/1462-2920.12572 (2014)

図1 Streptomyces GSRB54株から単離した新規のメチル基転移酵素遺伝子(arsM)

図2 Streptomyces GSRB54株の接種試験(A)、電子顕微鏡写真(B)、およびヒ素のメチル化に関する分子メカニズム(C)

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