農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成26年度 (第31集)

平成26年度主要成果

畜産事業場に対する亜鉛と銅の排出原単位の推定と
農地河川における亜鉛による生態リスク評価事例

[要約]

国内の畜産事業場を対象に、亜鉛と銅の排出原単位を推定しました。また農業地域を流れる河川では、畜産事業場からの排水が水系の亜鉛による生態リスクに影響を与える要因となることが分かりました。

[背景と目的]

畜産事業場は農業地域の主要な点汚染源の一つですが、排水基準の設定されている排水中の亜鉛と銅の排出の実態、および、このうち水生生物に対して生態リスクのある亜鉛について、農業地域での汚濁実態は分かっていませんでした。そこで、これらを明らかにするために畜産事業場排水と農地河川での水質調査を実施しました。

[成果の内容]

排水基準の設定されている畜産事業場からの亜鉛と銅の排出実態を明らかにするために、国内の畜産事業場で標準的な活性汚泥処理による浄化処理前後の排水(それぞれ「原汚水」と「処理水」)を収集して分析しました。その結果、飼料にこれらが添加される養豚事業場の排水には、乳牛飼養施設よりも高濃度に含まれること、そして、原汚水中の濃度は浄化処理により大きく低減できることが明らかになりました(表1)。以上の結果に基づいて、わが国の畜産事業場排水に対する亜鉛と銅の排出原単位を推定しました(表2)。

このうち亜鉛には、水生生物に対する生態リスクがあるため、水質環境基準が設定されています。農地河川における亜鉛による生態リスクを明らかにするため、2戸の養豚事業場の排水の流入する農地河川の水質調査を実施しました。この結果、流域最下流地点の亜鉛濃度は水質環境基準値(0.03 mg/L)を上回る場合があり、このとき、水生生物に対して無視できない生態リスクがあると判定されました(表3 の「現状」)。この汚濁の原因は、1戸の事業場からの処理不十分な排水の放流によるものと推定されたことから、河川の汚濁と生態リスクはこの排水の水質を 表1 の「処理水」へ適正化することで改善されると予測されました(表3 の「排水処理改良後」)。

以上のように、農業地域においては畜産事業場が亜鉛と銅の排出源であるため、これらの排出原単位を推定しました。そして、事業場での不十分な排水処理は河川水の亜鉛濃度と生態リスクを上昇させますが、適切な浄化処理により防止することができると考えられます。これらの知見は、畜産事業場のある河川流域での亜鉛による水質汚濁を未然に防ぎ、生態系を保全することに役立ちます。

本研究の一部は、環境省公害防止等試験研究費「農業・農村域を発生源とする亜鉛等重金属の水域生態系に与えるリスクの評価」による成果です。

リサーチプロジェクト名: 化学物質環境動態・影響評価リサーチプロジェクト

研究担当者: 物質循環研究領域 板橋 直、阿部 薫、坂西研二、鈴木一好(農研機構・畜草研)、和木美代子(農研機構・畜草研)、糟谷真宏(愛知農総試)、鈴木良地(愛知農総試)

発表論文等:1) Abe et al., , Water Sci. Technol., 66: 653-658 (2012)
2) Itahashi et al., Jpn. Agric. Res. Q., 48: 291-298 (2014)

表1 国内の畜産事業場における浄化処理前後の廃水中亜鉛と銅の濃度分布

表2 我が国の畜産事業場における亜鉛と銅の排出原単位の推定値

表3 2戸の養豚事業場(1と2)のあるA川における水質亜鉛濃度分布と水生生物に対する生態リスクの評価事例

目次へ戻る   このページのPDF版へ