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平成26年度主要成果

土壌中 CO2 発生量鉛直分布の推定方法の開発

[要約]

土壌内部における二酸化炭素(CO2 )の発生量(土壌呼吸量)についての鉛直分布と時間変化をその信頼区間とともに評価する新しい手法(VCEP-PF法)を開発しました。

[背景と目的]

土壌から発生する CO2 は、大気中の CO2 濃度の増加において非常に大きな割合を占めており、その発生過程の詳細な理解は、地球温暖化研究における極めて重要な課題です。しかし、土壌を破壊することなく、CO2 発生量の土壌の鉛直分布を推定することは難しい問題でした。本研究では、土壌中の数点の CO2 濃度観測値から、土壌中 CO2 発生量の鉛直分布と時間変化をその信頼区間とともに評価する手法を開発しました。

[成果の内容]

本研究では、粒子フィルター法と呼ばれる統計学手法を用いて土壌中 CO2 発生量の鉛直分布を推定する手法(Vertical CO2 Emission Profile using Particle Filtering method: VCEP-PF法)を開発しました。この手法では、土壌鉛直方向のわずか数点において測定された CO2 濃度、水分、温度の時系列データを元に、CO2 発生量の鉛直分布と時間変化、及びその信頼区間を推定します。具体的には、まず各時間において、CO2 の発生量と拡散係数の鉛直分布の候補を正規乱数として計算機上で数万個発生させます。次に、それらの値を元に、拡散方程式(物質の拡散する様を計算する式)を解いて、各深度における CO2 濃度を推定します。次に、推定された CO2 濃度と観測された CO2 濃度を比較して、もっともらしい CO2 発生量の鉛直分布を統計学的にいくつか抽出します。抽出過程では、観測された水分と温度から計算された拡散係数も参考にします。抽出された値のセットから 図1 のような情報を得ることができます。

岐阜県の高山(AsiaFlux、JaLTER 登録サイト: 高山(TKY)サイト)における落葉広葉樹の森林の土壌において、2005 年 6 月から 2007 年 12 月にかけて、土壌中に CO2 濃度のセンサーを 0、5、10、20、50 cm の深さに埋め込み、CO2 濃度と土壌水分(土壌水分は産業技術総合研究所が測定)および温度の連続測定を行いました。観測された CO2 濃度、水分、温度をもとに VCEP-PF 法によって CO2 の発生量の鉛直分布と信頼区間を推定したものを 図1 に示しました。VCEP-PF法では、このような図を各日について得ることができます。また、VCEP-PF 法により推定された土壌表面からの CO2 フラックスはよく観測値に合うこともわかり、この手法の妥当性も示唆されました(図2)。VCEP-PF 法により推定された CO2 発生量の鉛直分布の時間変化を 図3 に示しました。近年、比較的簡易に土壌 CO2 濃度を測定できるようになり、また、この測定値を VCEP-PF 法と組み合わせることで、今後、多点において CO2 発生量の鉛直分布を得ることができ、土壌においてどのように CO2 が発生しているかの理解が進むことが期待されます。VCEP-PF 法のプログラムは下記発表論文に付記しています。

リサーチプロジェクト名: 農業空間情報・ガスフラックスモニタリングリサーチプロジェクト

研究担当者: 生態系計測研究領域 櫻井玄、大気環境研究領域 米村正一郎、横沢正幸(静岡大学)、物質循環研究領域 岸本文紅、村山昌平(産業技術総合研究所)、大塚俊之(岐阜大学)

発表論文等:1) Sakurai et al., PLoS ONE. doi:10.1371/journal.pone.0119001(2015)

図1 VCEP-PF法による推定値と信頼区間

図2 VCEP-PF法による推定値と観測値の比較

図3 土壌からのCO2の発生量の垂直分布のVCEP-PF法による推定値

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