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平成27年度主要成果

世界の穀物生産に影響を及ぼす干ばつを監視するために
衛星土壌水分量データを使用する場合の注意点

[要約]

世界の穀物生産に影響する干ばつの監視を目的に、地上分解能の低い衛星土壌水分量データを利用する場合、(1) 複数データセットを比較し、農地について精度が高いものを用いる、(2) 日データから一定期間の平均値を求め、かつ平年比などにして用いる、(3) 灌漑面積割合が高いなどデータの利用が不適切な地域は除外して用いることが望まれます。

[背景と目的]

世界の穀物生産を把握するうえで重要となる干ばつを監視するため、米国や欧州、日本の宇宙開発機関が公開している衛星土壌水分量データの使用が始まっています。これらのデータは、全球を対象とするものの地上分解能は0.25°と粗いため、農地の土壌水分量の変化を把握できるかどうかを確認する必要があります。そこで、栽培期間の農地18地点で4種類の衛星土壌水分量データを地上観測値と比較し、全球での干ばつ生産影響の監視に衛星土壌水分量データを用いる際の注意点を整理しました。

[成果の内容]

日・米・欧の宇宙開発機関は異なる衛星土壌水分量データセットを公開しています。トウモロコシ、ダイズ、コメ、コムギのいずれかを栽培している日・米・欧の18地点(図1)で9年間の衛星と実測による土壌水分量の日データを比較した結果、衛星が実測の土壌水分量の時間変動を捉える精度(相関係数)はデータセットと作物により異なりました。ダイズとコムギについては、欧州宇宙機関のデータ(旧版がCCISM-1、新版がCCISM-2)が相対的に高い精度を示しました(図2)。トウモロコシについては、日本の宇宙航空研究開発機構のデータ(AMSRE-J)は欧州宇宙機関のデータとほぼ同程度の精度でした。コメについては、AMSRE-Jデータが最も高い相関係数の値を示したものの、他の作物に比べて、いずれのデータセットでも相関係数は低い値となりました。なお、米航空宇宙局のデータ(AMSRE-N)は4作物の全てで著しく低い相関係数の値を示しました。

日データに比べ、1カ月などの期間でデータを平均すると実測値との相関が高くなりました(図3)。このため、提供されている日データから月平均値を計算し、さらに平年比などの定性的な情報に加工して用いることが望まれます。また、地上分解能が低いこれらの衛星データでは、ピクセル内の収穫面積や灌漑面積の多寡によっては干ばつの生産影響を適切に捉えられない場合があります。図1の地点では、コメ以外の作物の収穫面積がピクセルに占める割合は10~23%、灌漑面積は20%未満でしたが、コメの場合、収穫面積が5%未満、灌漑面積は100%だったため、観測値との齟齬が大きくなりました。このため、農地や灌漑の地図を用いて、衛星土壌水分量データの利用が適切でない地域を予め除外してからデータを利用することが望まれます。

本研究の一部は環境省環境研究総合推進費「気候変動リスク管理に向けた土地・水・生態系の最適利用戦略」および「気候変動に対する地球規模の適応策の費用便益分析」による成果です。

リサーチプロジェクト名:食料生産変動予測リサーチプロジェクト

研究担当者:大気環境研究領域 酒井徹、飯泉仁之直、西森基貴

発表論文等:1) Sakai et al., Intl. J. Appl. Earth Obs. Geoinf, doi:10.1016/j.jag.2015.09.011 (2015)

図1 衛星土壌水分量と実測値を比較した農地: 18地点の日データを比較に用いました。いずれの地点も、トウモロコシ、ダイズ、コメ、コムギのいずれかを栽培中の土壌水分量の実測値が9年間(2002-2010年)のうち複数年について得られています。

図2 衛星土壌水分量が実測値の
日データの時間変動を捉える精度: 9年間の日データを用いて、データセット・作物・地点ごとに相関係数を算出し、
複数地点の平均を示しました。エラ-バ-は地点間の標準偏差を表します。相関係数の値が+0.3程度で弱い正の相関がありますが、日スケールでは衛星土壌水分量の精度は高くありません。

図3 衛星土壌水分量と実測値の相関係数の時間平均による変化 日データを8日、16日、1ヶ月平均した場合について、衛星土壌水分量と実測値の相関係数を算出し、日データを使用した場合の相関係数の値(図2)との差を示しました。アメリカ航空宇宙局のデータ(AMSRE-N)とコメを除いて、ほとんどのデータセットで時間平均後に相関係数が上昇する傾向が多くの作物で見られました。このことから、衛星土壌水分量データは実測値の季節変化や年々変動については捉えられていることが分かります。

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