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平成27年度主要成果

日本国内には419種のC4植物が分布し、
そのうち116種は過去25年間に侵入・定着した

[要約]

国内の草本として419種のC4植物が分布し、そのうち過去25年間に116種の外来種がわが国に侵入・定着していることが明らかとなりました。本研究で作成したC4植物の一覧は、それらをリスク管理しながら有効に利用する際に役立ちます。

[背景と目的]

近年、環境への負荷を軽減した持続的農業が推進される中、高い物質生産能力を持ち、環境耐性が高いC4植物は、食用作物だけでなく、エネルギー作物としても利用が期待される植物資源です。国内に分布するC4植物の外来・在来等を含めた詳細な一覧は、それらを有効に活用し、そのリスクを管理するための基本情報となります。

[成果の内容]

C4植物の葉には「クランツ構造」と呼ばれる独特の構造があり、外気から取り込んだCO2を濃縮してからカルビンサイクルに受け渡すため、効率のよい光合成が行われます。C3植物と比べて、C4植物は高温や乾燥条件下でも高い光合成能力を発揮するため、物質生産量が多く、食用やエネルギー作物としての利用が期待されています。

科学論文や図鑑等を精査し、国内外で発表されたC4植物に関する報告を集約し、1990年における国内の分布情報と比較しながら、外来植物と在来植物の情報を併せて一覧としました。その結果、ハマミズナ科、キク科、フウチョウソウ科のC4植物の日本国内における分布が見いだされ、合計 11科 91属 419種(単子葉類 3科 72属 357種、真正双子葉類 8科 19属 62種)のC4 植物の分布が確認されました。(表1)。また、過去25年間に176種のC4植物が新たに確認され、そのうち116種を外来種が占めていました。C4植物全体の過半数を占めるイネ科に着目すると、1990年以降に新たに確認された127種のうち、約65%にあたる82種を外来種が占め、1990年以前の外来種の割合(約50%)より高い割合を示しました(図1)。

C4植物には、食用作物やエネルギー作物として適したバイオマスが大きい種だけでなく、高い耐乾性や耐塩性を示す種もあり、その性質を活用することによって、様々な産業面での応用が期待されます。一方で、高いバイオマス生産、環境ストレス耐性を示す植物の利用に際しては、導入地からの逃げだしや拡散のリスクもあり、それらの侵略性を事前に評価し、雑草としてのリスクと産業利用により得られるベネフィットを考慮した使用が望まれます。本研究によりまとめられたC4植物の一覧は,このような雑草のリスク管理にも役立つことが期待されます。

リサーチプロジェクト名:遺伝子組換え生物・外来生物環境影響評価リサーチプロジェクト

研究担当者:生物多様性研究領域 吉村泰幸

発表論文等:1) 吉村、日本作物学会紀事84 : 386–407 (2015)

表1 日本国内に分布する C<sub>4</sub>植物の一覧:  国内に分布する C<sub>4</sub>植物のフロラを 25年ぶりに取りまとめました。ハマミズナ科、キク科、フウチョウソウ科のC<sub>4</sub>植物の分布も新たに確認され、単子葉類と真正双子葉類を合わせて 11科 91属 419種の C<sub>4</sub>植物が分布し、そのうち過去 25年間に 116種の外来種が侵入・定着したことがわかりました。

図1 1990年前後のイネ科C4 植物の在来・外来種の割合比較: イネ科C4植物では、1990年以降新たに確認された種の約65%を外来種が占め、それ以前の割合より高い割合を占めました。近年、意図的に導入した牧草の他、輸入穀物や飼料等に混入したイネ科種子が侵入・定着したと考えられます。

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