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平成27年度主要成果

生分解性マルチの分解速度が畑によって違う理由には土壌微生物とそれらが生産する酵素が関わっている

[要約]

生分解性プラスチック(生プラ)製の農業用マルチフィルム(生プラマルチ)の分解が早い畑の土では、生プラ分解能を持つ微生物の分離率が高く、こうした土では、エステル分解酵素(エステラーゼ)の活性が高い傾向がありました。

[背景と目的]

農地で雑草防止や水分・温度保持のため使われる生分解性ポリエステル製の生プラマルチは、環境中で完全分解されるため、回収する労力やコストが減らせて、農作業の効率化がはかれます。しかし、生プラマルチの分解速度が畑ごとにばらつくことが普及の課題になっています。この原因について、畑の土にすむ微生物が分泌する生プラ分解酵素(エステラーゼの一種)に着目し、国内11カ所の畑土で、生プラ分解微生物の分離率と土壌の酵素活性を調べました。

[成果の内容]

土壌の生プラ分解活性の強弱を測るために対象とする物質として、生プラマルチ分解活性の評価にはポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)製の黒色フィルムを、生プラ分解能を持つ微生物の分離にはPBSA乳濁液を、土壌のエステラーゼ活性の評価にはパラニトロフェノール吉草酸を用いて解析した結果、以下のことがわかりました。

本研究の一部は、平成23年度 科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) 「フィージビリティスタディ【FS】ステージ」による成果です。

リサーチプロジェクト名:情報化学物質・生態機能リサーチプロジェクト

研究担当者:生物生態機能研究領域 山元季実子、渡部貴志、小板橋基夫、山下結香、鎗水透、 北本宏子、生物多様性研究領域 平舘俊太郎

発表論文等:Yamamoto-Tamura et al., AMB Express, 5: 10 (2015)

図1 日本各地の畑土壌における生プラマルチ分解程度の違い: 生プラマルチ分解のモデルとして、PBSAのフィルムを土に埋め込みました。0, 1, 2, 3, 4週間後にフィルムを回収し、分解の程度を調べたところ、4週間たってもPBSAフィルムをほとんど分解しない土壌から、2週間後には埋め込んだフィルムが穴だらけにされてしまう土壌まで、分解の程度が土壌サンプルによってさまざまであることがわかりました。

表1 畑土壌サンプルの土壌タイプ・土性・全炭素・全窒素とフィルム分解速度: 今回調査した項目からは、フィルム分解速度に強く影響する土壌の物理化学特性は
見つかりませんでした。

図2 土壌のエステラーゼ活性: (A)畑土壌からのPBSA分解菌分離率と各土壌のエステラーゼ活性は正の相関(スピアマンの順位相関による)を示しました。(B)分解の速い岡山1土壌、および分解の遅い茨城土壌にPBSAフィルムを埋包し、フィルム周囲の土壌エステラーゼ活性の4週間の変化を調べました。岡山1 は元々エステラーゼ活性が高く、フィルム埋包によって短時間でエステラーゼ活性が上昇しました。

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