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平成27年度主要成果

カドミウム汚染水田浄化専用のカドミウム高吸収イネ「ファイレメCD1号」を開発

[要約]

カドミウムをよく吸収する外国のイネ品種に、もみが落ちにくく、倒れにくい性質を付与し、「ファイレメCD1号」として品種登録出願しました。「ファイレメCD1号」は、日本の稲作に適したカドミウム汚染水田の浄化専用のイネです。

[背景と目的]

これまでに農環研では、カドミウム汚染水田の実用的土壌浄化技術として、ファイトレメディエーションと化学洗浄法を開発しました(研究成果情報第28集)。これらの技術は、低コストで環境負荷の小さいことが利点です。しかし、ファイトレメディエーションで利用されているカドミウム高吸収イネ品種「長香穀」には、収穫前にもみが脱落しやすく、また倒伏しやすいという欠点がありました。そこで、これらの欠点を改善し、農家が育てやすいカドミウム高吸収イネ品種の開発に取り組みました。

[成果の内容]

開発したカドミウム高吸収イネ新品種「ファイレメCD1号」は、「長香穀」と同等のカドミウム吸収能力を持つ「ジャルジャン」にガンマ線を照射して作出された突然変異体です。「ファイレメCD1号」のカドミウム吸収能力は、「ジャルジャン」や「長香穀」と同等で、「コシヒカリ」の約10倍です(図1)。収穫前のもみの脱落(脱粒)性は、難脱粒品種である「コシヒカリ」程度まで改善しました(表1)。稈長が「ジャルジャン」より40 cm程度短くなったことにより、収穫期の倒伏が軽減されました。「ファイレメCD1号」のわら重や粗玄米重は、原品種「ジャルジャン」とほぼ同じで、吸収するカドミウム量には短桿化の影響はありません(表1図1図2)。「コシヒカリ」をはじめとする日本の食用品種とは、草姿や玄米の形態の違いから目視による識別が可能です(図2)。

脱粒性と倒伏性が改善された「ファイレメCD1号」は、機械化された日本の栽培体系に適した品種となり、カドミウム汚染水田の浄化を効率良く行うことができます。また、このカドミウム高吸収品種によるカドミウム汚染水田の浄化技術は、土壌中のカドミウム濃度を低減するため、米だけではなく、二毛作や田畑輪換の際、水田で栽培するダイズやコムギなどの作物中のカドミウムの低減にも応用可能な技術です。今後、「ファイレメCD1号」はカドミウム汚染水田浄化専用品種として、国内外での活躍が期待されます。

本研究は農林水産省委託プロジェクト「新農業展開ゲノムプロジェクト」による成果です。

リサーチプロジェクト名:有害化学物質リスク管理リサーチプロジェクト

研究担当者:土壌環境研究領域 安部 匡、石川 覚、倉俣正人(元土壌環境研究領域)、山本敏央(生物研)、矢野昌裕(生物研、現:作物研)

発表論文等:1) 安部ら、育種学研究、15(2)、17 –24(2013)
2) 安部ら、 品種登録出願「ファイレメCD1号」、品種登録出願番号 第29773号 (2015)

図1 早期落水栽培* におけるカドミウム吸収量の品種間差異(2012年): 土壌カドミウム濃度(0.1 mol/L塩酸抽出):農地A(0.37 mg/kg)、農地B(1.51 mg/kg)/*: 栽培中期から落水し、イネのカドミウム吸収を促進する栽培方法/「ファイレメCD1号」は、カドミウム高吸収品種「ジャルジャン」や「長香穀」と同等の高いカドミウム吸収量を示します。

表1 通常栽培における栽培特性のイネ品種間比較(2011~2012、つくば市): 「ファイレメCD1号」は「ジャルジャン」と比較して稈長が短くなり倒伏程度が軽減されました。
また、脱粒性も「コシヒカリ」と同等まで改善しました。

図2 ファイレメCD1号の草姿,もみと玄米(A:水田での草姿、B:株標本、C:もみと玄米): 「ファイレメCD1号」の登熟期の草姿は、「コシヒカリ」より大きく、目視による判別が可能です。また、もみや玄米においても、形や色の違いから日本の食用品種と容易に判別できます。

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