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研究資料
NIAES
平成28年3月31日
国立研究開発法人農業環境技術研究所

2015年夏季の農業気象(高温に関する指標)

はじめに

近年、夏季の高温による農作物の被害が多発しています。ここでは、水稲の生育に影響を与える 2015 年夏季の農業気象の概況を整理しました。具体的には、農環研 1km メッシュ気象データ 5) を用いて、猛暑日と熱帯夜、ならびに水稲の登熟期間の平均気温の地域的な特徴を示し、気象データに基づく穂温の推定結果についても紹介します。

概要

1.1km メッシュ気象データを使用した解析によると、2015 年の猛暑日(日最高気温 35 ℃以上)の記録回数は、1994 年以降の 22 年間で東日本が 5 番目、西日本が 9 番目の順位でした。また熱帯夜(日最低気温 25 ℃以上)の記録回数は、東日本が 8 番目、西日本が 22 番目(最下位)の順位で、西日本では猛暑日・熱帯夜とも過去 22 年間の平均記録回数を下回りました。

2.水稲の登熟前半の平均気温が 26 ℃を超えると、品質の低下リスクが増加します。出穂日から 20 日間(登熟前半)の平均気温が 26 ℃を超える地域は、関東東部、北陸平野部、東海ならびに近畿の平野部に広がり、2014 年の傾向と類似していました。中国、四国、九州では天候不順により、登熟前半の気温上昇が抑制されました。

3.穂温モデルを用いた解析から、8 月前半に関東・東海や九州などで、猛暑年であった 2010 年よりも穂温が高くなり、8 月下旬には東北・関東地方を中心に穂温が記録的に低下した可能性が示されました。

内容

1.猛暑日と熱帯夜

2015 年の猛暑日(日最高気温 35 ℃以上)の記録回数は、夏季の高温化が顕著になった 1994 年以降の 22 年間で、東日本が 5 番目、西日本が 9 番目の順位でした。熱帯夜(日最低気温 25 ℃以上)の記録回数は、東日本が 8 番目、西日本が 22 番目(最下位)の順位でした。猛暑日と熱帯夜の記録日数は過去 37 年間( 1978 年以降)で増加傾向にあり、猛暑日は 1994 年(特に西日本)、熱帯夜は 2010 年(特に東日本)がそれぞれ最多となっています(図1)。2015 年については、西日本では冷夏となり 2) 3)、猛暑日・熱帯夜とも 1994 年以降( 22 年間)の平均記録回数を下回りました。東日本では 8 月上旬までは高温の出現が多く、猛暑日の記録回数が比較的多くなったものの、8 月中旬以降は天候不順により、気温は低めに経過しました 2) 3)

次に猛暑日と熱帯夜の発生程度を表す日中と夜間の高温指標 1) を用いて、それらの分布の特徴を調べました(図2)。2015 年は、関東内陸(埼玉県と群馬県、栃木県の県境)と、東海の平野部(愛知県と岐阜県の県境付近)、ならび近畿(大阪府と京都府)の一部に猛暑日の発生程度が高い地域が認められました。熱帯夜については、関東地方の沿岸部、東海、近畿の平野部に発生頻度が高い地域が分布し、九州北部や瀬戸内、北陸の一部にも発生頻度がやや高い地域がありました(図2)。

2.登熟期間の平均気温

出穂日から20日間(登熟前半)の平均気温が 26 ℃を超えると、水稲の白未熟粒の発生が増大し、品質の低下リスクが生じるとされています 4)。2015 年はそのような地域が関東東部、北陸平野部、東海ならび近畿の平野部に広がっていました(図3)。この分布は 2014 年と類似していて 5)、7 月中旬〜 8 月上旬の北日本・東日本を中心とした高温が 2)、これら地域の出穂〜登熟前半と一致したことが原因です。一方、西日本では 8 月中旬以降の全国的な天候不順の影響で 2) 3)、2014 年に引き続き登熟前半の気温上昇が抑制されました。

3.開花時刻( 10 〜 12 時)における推定穂温

2015 年の開花時刻( 10 〜 12 時)の推定穂温は、8 月前半は記録的に高く、特に関東・東海や九州では猛暑であった 2010 年よりも高かったものと推定されました(図4上)。関東平野の一部地域(栃木県や茨城県など)では、出穂の最盛期となる7月末〜8月初めの推定穂温がさらに高温となりました(図略)。一方、8 月後半の推定穂温は全国的に平年より低く、特に、東北・関東地方では記録的に低かったものと推定されました(図4下)。

秋田、館野(茨城県つくば市)、高知における穂温推定値の長期変化( 1981 〜 2015 年)から、2015 年 8 月前半の高穂温と後半の低穂温の特徴が明瞭に認められます(図5)。

引用文献

1) Ishigooka Y., Kuwagata T., Mishimori M., Hasegawa T., Ohno H. (2011) Spatial characterization of recent hot summers in Japan with agro-climatic indices related to rice production, J. Agric. Meteorol., 67(4): 209-224.

2) 気象庁(2015)夏(6〜8月)の天候.http://www.jma.go.jp/jma/press/1509/01c/tenko150608.html

3) 気象庁(2015)9月の天候.http://www.jma.go.jp/jma/press/1510/01a/tenko1509.html

4) 森田 敏 (2008) イネの高温登熟障害の克服に向けて.日本作物学会紀事, 77(1): 11-12.

5) 独立行政法人農業環境技術研究所(2015)2014年夏季の農業気象(高温に関する指標).研究資料,http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/agromet/2014.html

6) 清野 豁 (1993) アメダスデータのメッシュ化について.農業気象,48(4): 379-383.

7) Yoshimoto, M., Fukuoka M., Hasegawa T., Utsumi M., Ishigooka Y., and Kuwagata T. (2011) Integrated micrometeorology model for panicle and canopy temperature (IM2PACT) for rice heat stress studies under climate change, J. Agric. Meteorol., 67: 233-247.

担当研究者

国立研究開発法人農業環境技術研究所 大気環境研究領域(作物応答影響予測リサーチプロジェクト)

上席研究員  桑形 恒男
主任研究員  石郷岡康史
上席研究員  吉本真由美
上席研究員  長谷川利拡

問い合わせ先

代表研究者:

国立研究開発法人農業環境技術研究所 大気環境研究領域

上席研究員  桑形 恒男
TEL 029-838-8202

広報担当者:

国立研究開発法人農業環境技術研究所 広報情報室

広報グループリーダー 小野寺達也
TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8299
電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

日最高気温が35度以上になった回数と日最低気温が25℃以上になった回数を東日本と西日本に分けて表示;1978年から2014年まで増加傾向、1994年はどのグラフでも出現数が特に多い(グラフ)

図1.日最高気温が 35 ℃以上になった回数(左図)と日最低気温が 25 ℃以上になった回数(右図)の年々変化 ( 1978 - 2015 年の過去 37 年間)

1981 - 2000 年の 20 年平均値を 100 とした時の相対値。農環研 1km メッシュ気象データ 6) を集計して算定。ここで、東日本は中部地方より東の地域に対応し、西日本は近畿地方より西の地域が対応する(ただし北海道と沖縄地方は含まず)。

(全国マップ)
(全国マップ)

図2.日中の高温指標 HD_x35(℃×day)(上図)と夜間の高温指標 HD_n25(℃×day)(下図)の分布(2015年) 農環研 1 km メッシュ気象データ 6) を使用。

2つの高温指標は次式で定義され 1)、それぞれ猛暑日と熱帯夜の発生程度を表している。

HD_x35(℃×day)= 納max(Tmax−35, 0)]

:日最高気温 Tmax が 35 ℃以上の日(猛暑日)の気温超過量を毎日積算する。

HD_n25(℃×day)= 納max(Tmin−25, 0)]

:日最低気温 Tmin が 25 ℃以上の日(熱帯夜)の気温超過量を毎日積算する。

関東内陸(埼玉県と群馬県、栃木県の県境の周辺)と、東海の平野部 (愛知県と岐阜県の県境付近)、ならびに近畿(大阪府と京都府)の一部に、日中の高温指標 HD_x35 (猛暑日の発生程度) が高い地域が広がっている。夜間の高温指標 HD_n25 (熱帯夜に発生程度) が高い地域は、関東地方の沿岸部、東海、近畿の平野部に分布し、九州北部や瀬戸内、北陸の一部などにもやや高い地域が存在する。

過去 25 年間における日中と夜間の高温指標の分布 (1991〜2015年) を、参考資料として 図A1 および 図A2 に示した。

(全国マップ)

図3.水稲の出穂日から 20 日間の平均気温分布(2015年)

農環研 1 km メッシュ気象データ 6) を使用し、出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得。

過去 25 年間における水稲の出穂日から 20 日間の平均気温分布(1991〜2015 年)を、参考資料として 図A3 に示した。

48の気象台(旭川、札幌、・・・、鹿児島、宮崎)の気象データをもとにした、8月前半、8月後半それぞれの10〜12時の平均穂温(グラフ)

図4.8 月前後半における、全国各地の開花時刻(10 〜 12 時)の平均穂温の推定値の分布

2015 年と 2010 年の結果、ならびに 1981 - 2010 年の 30 年間の平均値。各気象台地点の気象データと穂温モデル 7) より算定。

(グラフ)

図5.秋田、館野、高知での8月前後半における開花時刻(10〜12時)の平均穂温の推定値の長期変化(1981〜2015年)

各気象台地点の気象データと穂温モデル 7) より算定。

(全国メッシュマップ25枚)

図A1.過去25年間における日中の高温指標 HD_x35 (℃×day) の分布(1991〜2015年)

図A1 高解像度ファイル(3200px×2261px、2.7MB)

(全国メッシュマップ25枚)

図A2.過去25年間における夜間の高温指標 HD_n25 (℃×day) の分布(1991〜2015年)

図A2 高解像度ファイル(3200px×2261px、2.7MB)

(全国メッシュマップ25枚)

図A3.過去25年間における水稲の出穂日から20日間の平均気温分布(1991〜2015年)

出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。

図A3 高解像度ファイル(3200px×2261px、3.2MB)

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