農業環境技術研究所プレスリリース2007年9月21日(農林水産省など共同発表)

IV 輸入港周辺におけるセイヨウナタネ個体群の調査結果

1 研究課題名

セイヨウナタネ個体群の動態メカニズムの解明と競合における優位性の評価手法の開発

2 研究の趣旨

原材料用として輸入されたセイヨウナタネが輸入港 (茨城県鹿島港) の周辺で生育していることが、平成14年度及び15年度に行った調査で確認された (平成16年6月公表)。

この調査では、これらのセイヨウナタネが定着して世代交代しているかどうかが不明だったため、さらに平成16年4月から2年間、同地域でセイヨウナタネの個体群を継続して調査した。その結果、一部で世代交代している可能性が高いと考えられる個体群があったが、生育域は拡大していないことが明らかになった (平成18年7月公表)。

以上の結果を踏まえて、18年度からは、セイヨウナタネが周辺群落に侵入し、他の植物を駆逐して生育域を拡大することはないかを確認することを目的として追加調査を行った。

3 研究の方法

(1) 調査地点

これまで調査を継続してきた19地点のうち、セイヨウナタネ以外の植物群落が広く存在し、セイヨウナタネとの競合が観察できる2地点(A地点、B地点)を調査した (参考資料1)。

それぞれの地点では、生育環境 (空き地,歩道上,歩道縁石沿い上,下,植栽帯,車道上,中央分離帯上下等) ごとに、幅0.5〜1.7m、長さ30mの帯状の調査区を設け、A地点で21本、B地点で16本の帯状区を調査した(参考資料2)。

(2) 調査期間

平成18年7月〜平成19年6月

(3) 調査実施機関

独立行政法人農業環境技術研究所

(4) 生育状況の調査

セイヨウナタネと他の植物との競合を観察するため、2地点の帯状区ごとに植物群落の広がりと高さ、混生する植物の種類、そしてセイヨウナタネの個体数と生育状況を、毎月1回調査した。

(5) 除草剤耐性の調査

各帯状区でセイヨウナタネの葉を採取し、グリホサート及びグルホシネート耐性タンパクの有無によって、除草剤耐性個体(遺伝子組換えナタネ)かどうかを分析した。

4 研究の結果

(1) 生育状況調査

A地点(参考資料4参考資料6の上写真)

他の植物とほとんど競合しない歩道上のすき間 (帯状区3) および縁石沿い(帯状区7、9、14)でのみ、セイヨウナタネの生育を確認した。

多数の個体が確認された鹿島港からの出口側車線の両側 (帯状区7と9) では、平成18年9月にそれぞれで100個体をこえる多数の個体が生育し、その後開花に至る個体も見られたが、個体の数は変動しながら減少し、平成19年6月には6個体以下になった。

他の植物が広く優占し競合が起こる空き地 (帯状区1) では、セイヨウナタネの生育が確認された歩道上のすき間 (帯状区3) から1mしか離れていないにもかかわらず、調査期間中の生育は確認できなかった。

B地点(参考資料5参考資料6の下写真)

他の植物とほとんど競合しない歩道上のすき間 (帯状区2、4) や縁石沿い (帯状区5、7、11) と、定期的な草刈りにより草丈が低く保たれている中央分離帯 (帯状区8) で、セイヨウナタネの生育を確認した。

多数の個体が確認された帯状区では、A地点と同様に個体の数は変動しながら減少した。

他の植物が広く優占し競合が起こる空き地 (帯状区15、16) では、セイヨウナタネの生育は確認されなかった。

(2) 除草剤耐性調査

A地点 (171個体) とB地点 (125個体) には、除草剤耐性個体 (遺伝子組換えナタネ) は確認されなかった。

5 結論

(1) セイヨウナタネの生育拡大について

本調査期間中には、他の植物群落が広く存在し競合が起こる空き地では、セイヨウナタネの生育は全く確認されなかった。このことから、セイヨウナタネは周辺群落に侵入した場合でも、競合により他種を駆逐して生育域を拡大することはないと考えられる。また、前回の調査まで2地点で確認されていた除草剤耐性個体は、今回の調査では確認されなかった。

(2) 生物多様性影響評価について

遺伝子組換えセイヨウナタネについては、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」 (平成15年法律第97号) に基づく生物多様性影響評価の際に、環境中に逸出して生育し世代交代することも前提とした評価を行っており、今回の調査結果からも、これまでの生物多様性影響の評価の考え方や内容は適切であると確認された。

6 今後の研究について

2地点の調査をさらに平成20年6月頃まで継続するとともに、別途試験ほ場において、鹿島港周辺の植生を反映した生育地を設け、セイヨウナタネが他の植物との競合条件下においてどのような生育を示すかを確認することとしている。

このような科学的データに基づいて、セイヨウナタネは周辺群落に侵入した場合でも競合により他の植物を駆逐して生育域を拡大することはないことを確認すると共に、結果を公表し諸外国で行われる生物多様性評価に資する情報を提供することとしている。

参考資料1 調査地点の位置

参考資料1 調査地点の位置(地図)
(注) 調査地点7及び8は、平成14−15年度に行った調査においてセイヨウナタネがほとんど確認されず、平成16−17年度の調査は行わなかったため地図上に記載していない。今回の平成18−19年度調査では、赤文字で示したA地点 (No.6) とB地点 (No.14) を対象とした。

参考資料2 A地点の帯状区

参考資料2 A地点の帯状区(地図)
(注) 赤線は帯状区の境界。数字は帯状区番号。

参考資料3 B地点の帯状区

参考資料3 B地点の帯状区(地図)
(注) 赤線は帯状区の境界。数字は帯状区番号。

参考資料4 A地点で確認された個体数

定置帯状区の断面図

定置帯状区の断面図(A地点)

*調査期間中にセイヨウナタネが確認された帯状区

(注)入口側:鹿島港に向かい車両が進む方向、出口側:鹿島港から車両が出てくる方向

帯状区毎のセイヨウナタネ個体数

帯状区毎のセイヨウナタネ個体数(A地点)

参考資料5 B地点で確認された個体数

定置帯状区の断面図

定置帯状区の断面図(B地点)

*調査期間中にセイヨウナタネが確認された帯状区

(注)入口側:鹿島港に向かい車両が進む方向、出口側:鹿島港から車両が出てくる方向

帯状区毎のセイヨウナタネ個体数

帯状区毎のセイヨウナタネ個体数(B地点)

参考資料6 調査地点の様子

平成19年4月17日撮影。黄色丸内にセイヨウナタネの開花個体が生育。

A地点
帯状区1, 2, 3帯状区6, 7(縁石沿い)
A地点 帯状区1, 2, 3(写真) A地点 帯状区6, 7(写真)
 
B地点
帯状区14, 15, 16帯状区8(中央分離帯)
B地点 帯状区14, 15, 16(写真) B地点 帯状区8(写真)
セイヨウナタネの生育が確認された縁石沿い (上右) 及び中央分離帯 (下右) の状況。空き地 (上左、下左) ではセイヨウナタネの生育は確認されなかった。
プレスリリース本文 プレスリリースのページ 農業環境技術研究所トップページ