プレスリリース
平成19年11月14日
独立行政法人 農業環境技術研究所

日本の農地2万点のデータから土壌炭素の変動実態を解明
−適切な農地管理により地球温暖化緩和の可能性も−

(独)農業環境技術研究所は、全国の農地(約2万地点)の膨大なデータを解析し、水田、畑、樹園地など地目別の土壌炭素の変動実態を解明しました。土壌炭素含量の変動傾向は地目ごとに異なりましたが、その要因を解析した結果、水を張る水田とその他の地目の水分条件の違いや、もともとの土壌炭素含量の大きさに加え、作物残渣のすき込み、堆肥やきゅう肥など有機物の施用といった農地管理が、土壌炭素の増減に影響することが示されました。

本年5月に発表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書第3作業部会報告書では、農地土壌で炭素の蓄積量を増加させることで温暖化の緩和に貢献することが可能であり、そのための農地の適切な管理が重要であると指摘しています。今回得られた結果は、農地を適切に管理することにより土壌炭素の蓄積量を増大させ、それにより地球温暖化の緩和に貢献できる可能性があることを示したものです。

なお、今回の成果は、農林水産省生産局農産振興課からの依頼を受けて、(独)農業環境技術研究所が、全国の公立農業試験研究機関が1979年から1998年にかけて調査した分析データを解析して得られたものです。

研究推進責任者:(独)農業環境技術研究所

理事長 佐藤 洋平

研究担当者:(独)農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター 上席研究員

学術博士 中井  信

TEL 029-838-8353

広報担当者:(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

福田 直美

TEL 029-838-8191 FAX 029-838-8191

電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

[ 成果の内容の詳細 ]

1.農地の種類(地目)ごとの表層土壌の炭素含量は、水田、樹園地よりも普通畑で多いことがわかりました(図1)。これは、普通畑の土壌の多くが、もともと土壌炭素含量の高い火山灰由来の黒ボク土であるためです。

2.調査期間中の土壌炭素含量は、普通畑では減少する傾向が見られましたが、水田ではほとんど変化しませんでした(図1)。これは、投入される堆肥やきゅう肥などの有機物の量が少なくなっている(図2)ためと考えられます。土壌炭素含量が普通畑で減少しているのに対し水田で変化がないのは、湛水(水を張ること)によって土壌有機物の分解が抑制されるためと考えられます。樹園地では、水田や普通畑とは逆に、土壌炭素が増加する傾向が見られました(図1)。これは、耕起回数が少ないため土壌有機物の分解が抑制されることが主な原因と考えられます。

3.土壌炭素含量がもともと少ない土壌では有機物が蓄積しやすく、そのため炭素含量が減少しにくいことが分かりました(図3)。

4.今回の解析の結果、水田と畑の違いや、もともとの土壌炭素含量の大きさに加えて、農地への作物残渣のすき込み、堆肥やきゅう肥など有機物の施用、耕起回数を減らすなどの土壌管理によって、土壌中への炭素の蓄積が可能であることが示されました。このことは、農地の管理による地球温暖化の緩和への貢献の可能性を示しています。

[ 用語解説 ]

IPCC: 国連環境計画と世界気象機関が1988年に共同で設立した機関で、地球温暖化に関する知見の評価を実施している。第3作業部会は、温室効果ガスの排出抑制および気候変動の影響緩和策を評価している。

土壌環境基礎調査定点調査: 農林水産省農産振興課が補助事業として、公立農業試験研究機関に依頼して、1979年〜1998年の20年間の全国の主要な土壌を代表する2万地点の農地を対象とし、土壌の理化学性の変化などの土壌実態調査と、農家への土壌管理実態調査(アンケート調査)を行っている。この調査では1つの地点(定点)について5年に1度調査を実施した。

黒ボク土: 火山灰を材料として、土壌有機物の集積による黒い表層をもつ土壌である。北海道・東北の太平洋側、関東、九州に広く分布し、大部分は畑地や牧草地として利用されている。

土壌の炭素蓄積: 世界の深さ1mの土壌中には2,000ギガトン(Gt)と、大気中の炭素(760Gt)の2.6倍、生物の炭素(560Gt)の3.6倍もの多量の有機炭素が蓄えられている。土壌管理により、理論的にはさらに数十から数百Gtの炭素蓄積が可能と見積もられており、そのような土壌管理は持続性や生産性の点からも好ましいとされている。 [ 1ギガトン = 10億トン ]

[参考資料]

図1
図1 表層における土壌炭素含量の地目別平均値の推移
図2
図2 水田におけるたい肥等の施用量の推移
図3
図3 樹園地の初期(79-83年)土壌炭素含量と15年後(94-98年)の炭素増加量の関係
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