プレスリリース
平成20年3月27日
独立行政法人 農業環境技術研究所

農環研がコガタシマトビケラ幼虫を用いた農薬試験法マニュアルを公開

独立行政法人農業環境技術研究所 (農環研) は、わが国の河川に広く生息するコガタシマトビケラの1齢幼虫を用いた農薬の急性毒性試験法を開発し、試験法マニュアルと飼育法マニュアルを公開しました。

わが国の農薬登録制度では、水生生物に対する農薬の生態影響の評価を、OECDテストガイドラインに準拠する3種の試験生物種 (魚類・ミジンコ類・緑藻類) を用いた急性毒性試験により実施することになっています。しかし食物連鎖の中で藻類を食べる生物の代表種として試験に用いられるミジンコ類は湖沼に生息しており、水稲用の農薬による汚染が懸念される河川生態系の中で藻類を食べる生物を代表していません。

農環研が開発した方法は、わが国の河川生態系の中で藻類を食べる生物として重要な水生昆虫の一種であるコガタシマトビケラを対象とすることで、わが国の農業形態や自然環境にあった農薬の影響評価法を提供しています。マニュアルでは、多数の写真や図表を用いて毒性試験法や飼育法を平易に解説しています。これらのマニュアルを活用し、現行の農薬の生態影響評価制度にコガタシマトビケラを追加試験生物種として組み入れることによって、農薬による環境影響の低減に役立つと期待されます。

なお、本研究は農林水産省農林水産技術会議事務局委託プロジェクト研究「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」により実施したものです。

研究推進責任者:(独)農業環境技術研究所

理事長  佐藤 洋平

研究担当者:(独)農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域

任期付研究員     横山 淳史

TEL 029-838-8302 

主任研究員      大津 和久

主任研究員      堀尾  剛

研究コーディネーター 遠藤 正造

石原 悟 (現(独)農林水産消費安全技術センター)

広報担当者:(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

福田 直美

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8191

電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

[ 成果の内容の詳細 ]

1.試験法マニュアル(図1)では、農薬に対して感受性の高いコガタシマトビケラ1齢幼虫の性質や、その1齢幼虫を用いた急性毒性試験法をわかりやすく解説しています。本マニュアルでは試験する農薬の性質に応じて適切な試験条件を選択できます。急性毒性の判定は、水流刺激に対する1齢幼虫の伸身開脚反応の有無で判定しますが、その方法と判定基準についても詳細に解説しています。

2.また、試験法マニュアルでは、代表的な30種の殺虫剤の1齢幼虫に対する毒性データも紹介しています。既存の試験生物種であるミジンコ類に比べ、1齢幼虫の急性毒性は、殺虫剤によって1,000〜100,000倍も高いことが判明しました。この結果から、コガタシマトビケラは河川生態系に対する農薬の影響を評価する際に有用な試験生物であるといえます。

3.流水環境に生息する水生昆虫を室内で累代飼育することはこれまで困難であるとされていましたが、本研究ははじめてコガタシマトビケラの室内累代飼育に成功しました。スターラーで飼育水を常にかき混ぜることによって流水環境を再現し、大量飼育を実現しました。飼育法マニュアル(図2)は、卵から成虫までの飼育方法と採卵の方法を詳しく解説しています。本マニュアルの方法により、コガタシマトビケラの試験用個体を安定して供給できます。

4.試験法マニュアルおよび飼育法マニュアルのPDFファイルを、農業環境技術研究所Webサイト ( http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/ ) で公開しています。また、冊子を無償で配布しますので、ご入用の方は当研究所の広報担当までご連絡下さい。

[ 用語解説 ]

OECDテストガイドライン:各国が独自に開発していた化学物質の安全性等に関する試験法について、試験結果を各国が共通に使用できるようにすることを目的に、OECDが定めた統一的な試験方法。OECDテストガイドラインは、生態系での役割に着目して生物群を選定し、その中で取り扱いが容易でかつ感受性が比較的高いものを供試生物として示しており、湖沼生態系を代表する緑藻類、ミジンコ類、魚類が世界的に使用されている。

食物連鎖で藻類を食べる生物:湖沼や河川のような水生生態系の中で生産者 (植物・藻類) を食べる生物群。一次消費者。より高次の消費者 (魚類などの肉食動物) の餌として重要な生物群である。

水生昆虫:その生活史の一部またはすべての期間を水中で生活する昆虫類。

コガタシマトビケラ:河川など水の流れのある環境 (流水環境) に適応したトビケラ目の昆虫の一種。卵から蛹までを河川の中で生活する。本種は河川の上流から下流にかけて広く分布し、個体数や現存量が多いため、わが国の河川生態系の一次消費者として重要な生物のひとつである。

伸身開脚反応:試験用の容器内で丸まっている1齢幼虫に水流刺激を与えると、正常な個体は腹部を伸ばして脚を広げる反応 (伸身開脚反応) を示す。農薬の影響を受けた個体 (瀕死または死亡個体) はこのような反応を示さない。

[ 参考資料 ]

図1.コガタシマトビケラ農薬試験法マニュアル (表紙)
図1.コガタシマトビケラ農薬試験法マニュアル (表紙)
図2.コガタシマトビケラ飼育法マニュアル (表紙)
図2.コガタシマトビケラ飼育法マニュアル (表紙)
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