プレスリリース
平成20年3月28日
独立行政法人 農業環境技術研究所
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構

農環研などが2007年夏季異常高温下での水稲不稔率の増加を確認

独立行政法人農業環境技術研究所 (農環研) と独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構作物研究所 (作物研) は、 2007年8月に関東・東海地域で発生した異常高温により、この期間に出穂・開花した水稲において、通常より高い割合で不稔が発生したことを確認しました。

昨年 (2007年) 8月、関東、東海地域は、熊谷、多治見で観測史上最高の40.9℃を記録するなど、広い範囲で異常高温に見舞われました。これまで多くの室内実験から、水稲の開花時の温度が35℃を超えると、受精障害により不稔籾 (もみ) が多発することが知られています。昨夏に記録された異常高温は、これまで顕在化していなかった高温不稔を誘発しうる温度域であり、被害発生が懸念されました。

そこで、農環研と作物研は、群馬県、埼玉県、茨城県、岐阜県、愛知県と協力して、記録的な猛暑を観測した関東・東海地域において不稔発生の現地調査を行い、出穂・開花の時期に高温に遭遇した水田では、通常よりも高い割合で不稔が発生する傾向が見られました。ただし、その割合は、室内実験での温度反応から推定されるより低く、また出穂・開花の時期に高温に遭遇した水稲が少なかったこともあり、作況に影響するような大きな被害には至りませんでした。以上の結果は、今後予想される地球温暖化の進行が水稲に及ぼす影響を予測・検証する上で重要な基礎資料となります。

なお、本研究は、農環研、作物研、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センターによる協定研究 「2007年夏季異常高温が水稲生産に及ぼした影響に関する緊急調査研究」 により実施したものです。

研究推進責任者:(独)農業環境技術研究所

理事長  佐藤 洋平

(独)農業・食品産業技術総合研究機構

理事長  堀江  武

研究担当者:(独)農業環境技術研究所 大気環境研究領域

主任研究員  農学博士 長谷川利拡

TEL 029-838-8204

主任研究員  理学博士 桑形 恒男

主任研究員  学術博士 吉本真由美

主任研究員  農学博士 石郷岡康史

(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所

稲収量性研究チーム長   農学博士 近藤 始彦

稲収量性研究チーム研究員 農学博士 石丸  努

広報担当者:(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

福田 直美

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8191

電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

[ 成果の内容の詳細 ]

1.群馬県、埼玉県、茨城県、岐阜県、愛知県において、7月下旬から8月下旬までに出穂した132の水田を対象に不稔籾の発生を調査しました。調査水田近隣の気象官署、AMeDAS 観測地点の気象データと照合したところ、関東、東海の両地域で出穂・開花時期の最高気温が35℃を越えた水田があり、通常は約5%程度の不稔率が10%を越えた水田が認められました (図1)。

2.農環研内の実験水田においても、最高気温の高い時期に出穂した区画では、20%を超える不稔が記録されるなど、不稔籾の割合は出穂・開花時期の温度とともに高まることがわかりました (図2)。また、1.の5県の調査地点における同一品種の不稔籾割合を調べると、出穂・開花時期の温度とともに不稔籾割合は増加する傾向にありましたが、気温は高くても不稔籾割合が高くない地点もありました (図3)。

3.農環研で開発した穂温推定モデルによると、気温と推定穂温の分布は必ずしも一致しないことがわかりました (図4)。これは、穂の温度には気温だけでなく日射、風速、湿度といった気象要素も関連するからです。不稔籾割合との関係でも、気温よりも穂温の方が高い相関を示す傾向にありました。ただし、水稲の開花時間帯 (午前10〜12時頃) の穂温は、記録された最高気温よりも低かったと推定されること (図4)、また地域全体では出穂・開花の時期に高温に遭遇した水稲が少なかったことなどから、作況に影響するような大きな被害は認められませんでした。

[ 用語解説 ]

不稔:受精の失敗により種子が実らない現象。高温ストレス、低温ストレス、水ストレス、塩分ストレスなど多くの環境要因によって誘発され、ときとして大きな減収をもたらす。冷害は代表的な不稔による減収であるが、地球温暖化の進行に伴い高温による不稔の多発が懸念されている。

室内実験:人工気象室、ガラス室のように、囲われた室内の環境を操作して、植物の環境応答を調べる実験。室内実験の結果が、直ちに屋外の環境変化での予測に使えるかについては検証が必要である。

[ 参考資料 ]

図1.調査水田における出穂・開花時期(5日間)の最高気温と不稔籾割合(頻度グラフ)

図1. 調査水田における出穂・開花時期(5日間)の最高気温と不稔籾割合の頻度分布(関東、東海地域をあわせて表示)

図2.農環研実験水田における最高気温と開花日ごとにみたイネの不稔籾の割合(グラフ)

図2. 農環研実験水田における最高気温と開花日ごとにみたイネの不稔籾の割合

図3.出穂・開花時期(5日間)の最高気温と不稔籾割合の関係(分布図)

図3. 出穂・開花時期(5日間)の最高気温と不稔籾割合の関係 (図1の調査水田のうちで、広域に栽培されていた品種の一例。異なるシンボルは調査対象市町村の違いを示す)

図4.2007年8月16日の最高気温の分布と穂温推定モデルによる同日午前10〜12時(開花時間帯)の推定穂温(マップ)

図4. 2007年8月16日の最高気温の分布(左)と穂温推定モデルによる同日午前10〜12時(開花時間帯)の推定穂温の分布(右)

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