農業環境技術研究所プレスリリース

プレスリリース
平成20年4月16日
独立行政法人 農業環境技術研究所

農環研が明治初期の関東地方の土地利用を閲覧できるシステムを公開
−現在と120年前の土地利用状況を容易に比較−

独立行政法人農業環境技術研究所(農環研)は、里地里山の土地利用や農村地域の生物生息地の変化を客観的に把握するため、明治時代初期に作成された地図 (迅速測図) をインターネットで閲覧、利用できる 「歴史的農業環境閲覧システム」 を構築しました。

「迅速測図」 は明治初期から中期に、簡便な測量方法によって作成された地図です。中でも関東地方のものはその彩色により当時の土地利用 (地目) が容易に判別できます。農環研では、関東地方の迅速測図約900枚を1枚の画像に結合し、位置情報を与えることによって、現在の地理情報と自動的に重ね合わせられるようにしました。結合した迅速測図を広く活用できるように、オープンソースのソフトウェアを用いて、インターネットで閲覧や利用が可能なシステムを構築しました。このシステムでは、各種のウェブブラウザや Google Earth というソフトウェア上で迅速測図を閲覧することや、さらに地理情報システムを用いた土地利用変化の分析に利用することができます。

本システムにより閲覧できる明治初期の土地利用は里地里山の原景観ともいえ、現在の土地利用と比較することで身近な生物多様性の保全や農業環境の管理に活用できます。また、地域環境の120年前の姿がわかるなど、専門家から一般の方まで、さまざまな利用が可能です。

このシステムは、4月18日に開催する研究所一般公開において展示し、来場者に体験していただく予定です。一般公開終了後には、農環研のWebサイト(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes)から閲覧・利用可能にする予定です。

研究推進責任者:(独)農業環境技術研究所

理事長  佐藤 洋平

研究担当者:(独)農業環境技術研究所 生態系計測研究領域

主任研究員 博士(理学)     岩崎 亘典

上席研究員 学術博士 デイビッド スプレイグ

TEL 029-838-8226

広報担当者:(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

福田 直美

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8191

電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

[ 成果の内容の詳細 ]

1.昨年11月に閣議決定された第三次生物多様性国家戦略では、伝統的な農業活動の変化に伴う農村環境における生物多様性の減少や里地里山の荒廃が重要な問題として指摘されています。また、本年7月の洞爺湖サミットの開催や、2010年に予定されている生物多様性条約締約国会議 (COP10) の誘致にむけて、国際的にも生物多様性の独自性やその維持のための活動の重要性を発信することが期待されます。このように、農業環境における生物多様性の変化についての関心が高まっていますが、これらの変化の範囲と規模は十分に把握されていません。その原因の一つとして、評価の基準となる情報 (ベースライン) が十分には整備されていないことがあげられます。そこで、評価のための基礎的情報として、明治時代に作成された地図 (迅速測図) を閲覧・利用できる 「歴史的農業環境閲覧システム」 を構築しました。

2.「迅速測図」 は明治初期から中期に、簡便な測量で作成された地図で、関東地方を対象に作成されたものは彩色されているので当時の土地利用 (地目) が容易に判別できます (図1)。そこで、関東地方の迅速測図 (約900枚) を相対的な位置関係に基づいて1枚の画像として統合し、位置情報を与えてGIS 1) で現在のさまざまなデータと統一して扱えるようにしました。

3.この情報を活用するため、オープンソース・ソフトウェア 2) の GeoServer 3)、GeoWebCache 4)、Open Layers 5) を使用して、インターネット経由で閲覧・利用が可能なシステムを構築しました。これにより、Webブラウザや Google Earth を利用して、120年前の農業環境を閲覧できます (図2 および 図3)。さらに、WMS 6) に準拠したGISソフトウェアを使用することにより、土地利用変化の分析等の資料として利用することができます。これらの閲覧、表示にはオープンソース・ソフトウェアを使用しているため、再配布や改良が可能です。

4.本システムにより閲覧できる明治初期の土地利用は、農業活動により管理されていた里地里山の原景観の一つであるといえます。これらの里地里山には第三次生物多様性国家戦略でも指摘されているように、管理方法に応じた多様な生物相が存在していたと考えられます。そこで、本システムにより閲覧されるデータと、現在の土地利用と比較することにより、関東地方における生物多様性の変化や生息適地の変動に関する研究の基礎的資料としての活用が期待されます。さらに、NPOやNGOによる身近な里地里山の管理や、農業環境の保全や管理の指針となるほか、地域環境の120年前の姿がわかるなど、専門家から一般の方まで、さまざまな利用が可能です。

5.迅速測図を1枚の画像に合成する際に、接合部に大きなズレがある場合がありました。また、図幅内でも谷状の地形の先端部での誤差が大きい傾向があります。そのため、本システム上での位置が現在の地図上の位置と同じとは限らないので、利用に当たってはその点に注意が必要です。

6.今後は、120年前から現在に至る途中の時期の土地利用情報なども閲覧できるようにするとともに、住所を利用した位置検索機能を追加する予定です。

[ 用語解説 ]

1.GIS: Geographical Information System (地理情報システム) の略称。コンピュータ上でさまざまな地理的情報を扱うためのソフトウェア。

2.オープンソース・ソフトウェア: プログラムの中身であるソースコードが公開されていて、使用や改変、再配布が自由なソフトウェア。

3.GeoServer: インターネットを利用して地図などの地理的情報を発信するためのオープンソース・ソフトウェア。

4.GeoWebCache: インターネットを利用した地理的情報の発信を高速化するためのオープンソース・ソフトウェア。

5.Open Layers: Webブラウザ上で地理的情報を表示したり重ね合わせたりするためのオープンソース・ソフトウェア。

6.WMS: Web Map Serviceの略。GISデータを画像として配信するための仕様。

[ 参考資料 ]

図1.歴史的農業環境閲覧システムのWebブラウザ上での表示例(画像)

図1. 歴史的農業環境閲覧システムのWebブラウザ上での表示例

図2.Google Earth 上での表示例(画像)

図2. Google Earth 上での表示例

図3.Google Earth で表示し、迅速測図の透明度を50%にした場合

図3. Google Earth で表示し、迅速測図の透明度を50%にした場合
透明度を変更することにより、現在の土地利用との比較が可能です。

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