農業環境技術研究所プレスリリース

プレスリリース
NIAES
平成23年6月22日
独立行政法人 農業環境技術研究所

50年後に想定される高いCO濃度条件下では、コメの高温障害はさらに進行
―2010年の猛暑下における FACE 実験結果から予測―

ポイント

・ イネの FACE ( Free Air CO2 Enrichment;開放系大気 CO2 増加) 実験を2010年の猛暑下で実施し、大気中の二酸化炭素 ( CO2 ) 濃度の増加がイネの収量・品質に及ぼす影響を調査

・ CO2 濃度を高くすることによってコメの収量は増加したが、白未熟粒が著しく増加し、コメの品質を左右する整粒率は大幅に低下

・ 将来予測される高温・高 CO2 環境での品質の維持・向上に向けた取り組みが重要

概要

1.独立行政法人農業環境技術研究所は、CO2 濃度を現在よりも 200 ppm 高めた屋外水田でイネを栽培する FACE ( Free Air CO2 Enrichment, 開放系大気 CO2 増加 ) 実験を、2010年につくばみらい市で実施しました。

2.2010年の日本の夏 (6〜8月) の平均気温は観測史上最高を記録し、試験地における生育期間の日平均気温は平年より 1.8 ℃高く推移しました。

3.50年後に想定される、現在より約 200 ppm 高い CO2 濃度(平均 584 ppm) に制御した区(高CO2 区)では、現在のCO2 濃度の区(対照区)と比べて、収量は16%増加したものの、整粒率 (未熟米、割米などを除いた、整った米粒の割合) は17ポイント低下し、多数の白未熟粒が発生しました。

4.窒素が少ない施肥条件では、整粒率も低い傾向となりました。高CO2 濃度条件では、窒素栄養が不足しやすいことに加えて、蒸散が抑制されて群落内の気温が対照区より高く推移したことなどにより、整粒率が大きく低下したと考えられます。

5.これまで、高温条件がコメの外観品質を低下させることは知られていましたが、本研究から高CO2 濃度条件が高温障害を悪化させることがわかりました。ここで得られた結果は、温暖化影響の将来予測に反映させるとともに、高温障害を軽減する技術の開発に役立てます。

本研究は、2011年6月25〜26日に東京大学で開催される日本作物学会第231回講演会のための研究集会において発表する予定です(*1)。

*1 長谷川利拡ら 2011 茨城県つくばみらい市における新たな水田開放系大気 CO2 増加 (FACE) 実験 日本作物学会紀事 80巻(別1号): 134-135

常田岳志ら 2011 開放系大気 CO2 濃度増加が水稲の生殖成長とコメ品質に与える影響 日本作物学会紀事 80巻(別1号): 136-137

吉本真由美ら 2011 2010年つくばみらい FACE における気孔コンダクタンスと群落熱・水収支の高 CO2 応答 日本作物学会紀事 80巻(別1号): 138-139

予算: 農林水産省プロジェクト 「農林水産分野における地球温暖化対策のための緩和および適応技術の開発」

問い合わせ先など

研究推進責任者:

(独)農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台3-1-3

理事長    宮下  清貴

研究担当者:

(独)農業環境技術研究所 大気環境研究領域

上席研究員   長谷川利拡

TEL 029-838-8204

特別研究員   常田  岳志

特別研究員   臼井  靖浩

主任研究員   吉本真由美

主任研究員   酒井  英光

研究員   福岡  峰彦

JSPS外国人特別研究員   朱   春梧

(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター

情報利用研究領域 上席研究員   中川  博視

広報担当者:

(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

田丸  政男

TEL 029-838-8191

電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

開発の社会的背景と研究の経緯

1.近年の温暖化傾向により、高温障害によるコメの品質低下が大きな問題になっています。また、今後も予測される大気中二酸化炭素(CO2 )濃度の上昇と温暖化の進行に対しては、中長期的に影響を解明し、適切な対策をとるための技術開発を進めることが重要です。

2.寒冷地の岩手県雫石町で実施した FACE 実験から、大気 CO2 濃度の上昇は、光合成を促進し、イネの収量を高めることが分かっていましたが、より温暖な地域で品種、水温、地温、施肥などの条件を組み合わせた実験を行い、CO2 濃度の上昇や温暖化が収量、品質に及ぼす影響を調べる必要があります。

3.農業環境技術研究所では、そのための実験拠点として、「つくばみらい FACE 実験施設」 を茨城県つくばみらい市の水田に設置し、2010年から栽培実験を開始しました。

研究の内容・意義

1.2010年に茨城県つくばみらい市の農家水田4筆にそれぞれ対照区と高 CO2 区(外気 + 200 ppm)を設置し、イネの成熟期までCO2 濃度処理を行いました(写真1)。各 CO2 処理区内には、3水準の窒素肥料区と、水温を外部に比べて2℃高める水温上昇区を設けました。

2.実験期間中の日平均気温は25℃で、アメダスつくば観測地点の過去20年の平均より1.8℃高く、1998〜2008年に実施した雫石 FACE の生育期間平均気温に比べると約5℃高くなりました。日中の CO2 濃度の平均は 386 ppm であったのに対し、高 CO2 区における平均 CO2 濃度は平均 584 ppm に維持されました。

3.高 CO2 区では光合成が促進されるため、コシヒカリの収量は対照区に比べて16%増加しました。この結果は、雫石 FACE 実験とほぼ同様でした。

4.一方、品質にとって重要な指標である整粒率は、高 CO2 区で17ポイント低下しました。その主因は白未熟粒 (特に基部に白い濁りが見られるもの) の多発でした(図1)。これは、冷涼な雫石では認められなかった現象です。

5.整粒率は、玄米タンパク質含有率の低下に伴って低下しました。また、玄米のタンパク質含有率は、低窒素施肥条件により低下しましたが、同じ窒素施肥条件では高 CO2 区で低くなりました(図2)。一般に、植物のタンパク質含有率は窒素栄養条件と密接に関連します。高 CO2 区では光合成が盛んになり炭素化合物の蓄積が促進される一方、窒素の吸収の促進は大きくなかったことから、植物体の窒素含有率及びタンパク質含有率は対照区に比べて低くなったものと考えられます。また、玄米タンパク質含有率の低下は、整粒率を低下させる傾向にあったことから、高 CO2 処理による整粒率の低下には、玄米タンパク質含有率の低下が関連しているものと考えられます。

6.さらに、同じタンパク質含有率の条件で比較しても、高 CO2 区の整粒率は対照区に比べて明らかに低かったことから(図2)、高CO2 処理による整粒率の低下には、玄米タンパク質含有率以外の要因も関わるものと考えられます。高 CO2 濃度条件が、葉の気孔を閉じ気味にすることはこれまでにも観察されています。本実験においてもその影響が顕著に現れ、その結果、蒸散による群落冷却効果が低下し、登熟期間中の高 CO2 区の群落内の最高気温は、対照区に比べて約0,5℃高く推移しました。

7. 以上のように、高 CO2 濃度条件では、玄米タンパク質含有率が低下したことに加えて、群落内の気温が高く推移したことなどにより、白未熟粒の発生が増加し、整粒率が大きく低下したものと考えられます。

今後の予定・期待

本実験で得られた結果は、気候変動がコメの品質に及ぼす影響を予測するための重要な知見です。また、過去の雫石 FACE 実験のデータを合わせて解析することで、白未熟粒の発生条件の解明にも役立ちます。さらに、今後も FACE 実験を行い、異なる品種や栽培条件での影響を明らかにすることにより、高 CO2 濃度、高温環境下においても被害を軽減させる栽培管理技術や高温耐性品種の開発に貢献します。

水田FACE実験区(写真):風上側のチューブからCO2放出/試験区の中央で風向・風速とCO2濃度をモニターする

写真1 茨城県つくばみらい市における FACE (Free Air CO2 Enrichment;開放系大気CO2増加) 実験施設
屋外条件で高 CO2 濃度を実現するもので、この施設では、水田の一部に差し渡し17mの正八角形状にチューブを設置し、風向きに応じて CO2 を放出します。正八角形区画内の CO2 濃度は外気よりも約 200 ppm 高い濃度(生育期間平均で 584 ppm)に制御されます。

(棒グラフ):整粒数の割合は対照区で40数%程度が高CO2区で20数%程度に大幅低下、異状粒のうち「基部未熟粒」の割合は対照区20数%から高CO2区約40%に増加。「胴割粒」「乳白粒」「腹白未熟粒」の割合は両区で10%以下と少なく、区間差は明らかではない。

図1 高 CO2 濃度がコシヒカリの玄米品質に与えた影響
高 CO2 濃度条件では、整粒率が低下し、乳白粒や未熟粒が増加しました。整粒率低下の主要因は白未熟 (乳白、基部未熟、腹白未熟) によるもので、特に玄米の基部(胚側)に発生した白濁が原因でした。(3窒素区、2水温区の平均。縦棒は標準誤差。)

(散布図):全32区の「玄米タンパク質含有率(X)」(6.8〜8.4%)と「整粒率(Y)」(12〜52%)を図示。全データ(32点)で正相関あり、高C02区のデータ(Xが低めで、Yは明らかに低い)と対照区のデータ(Xは高めで、Yは明らかに高い)(各16点)の中にはより強い正の相関がある。

図2 CO2 濃度・温度・施肥水準がコシヒカリの整粒率に与えた影響
玄米タンパク質含有率(乾物重あたり)と整粒率には有意な正の関係が認められました。また、CO2 処理間に有意な差が認められました。(赤;高 CO2 区、青;対照区。△;多窒素施肥区、○;標準窒素施肥区、□;窒素無施肥区、◇;水温上昇区。)

用語の解説

整粒   ; 透明度が高く、形が整った米粒。

胴割粒  ; 亀裂の入った米粒。

白未熟粒; 白濁した部分をもつ米粒。等級格落ちの理由にもなるため、発生原因の解明や対策技術の開発が進められています。デンプンのつまりが悪かった細胞に空気の隙間ができ、光を乱反射して白濁させることが知られています。白濁した部位により、下記のような種類があります。

乳白粒   ; 内部が白濁した米粒。

基部未熟粒; 基部(胚側)が白濁した米粒。

腹白未熟粒; 胚がある腹側が白濁した米粒。

背白未熟粒; 胚の反対の背側が白濁した米粒。

(精米の外見の拡大写真):整粒、胴割粒、白未熟粒(乳白粒、基部未熟粒、腹白未熟粒、背白未熟粒)
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