農業環境技術研究所 > プレスリリース

プレスリリース
NIAES
平成25年2月19日
独立行政法人 農業環境技術研究所

放射性セシウムの
「水による土壌撹拌・除去技術」 の除染効果の実証試験結果

ポイント

・ 表土の削り取りや反転耕では除染が困難な農地のうち、水田において「水による土壌撹拌・除去技術」により除染したときの放射性セシウム濃度等の低減効果について、(独)農業環境技術研究所などが実証試験を行いました。

・ この実証試験では、

(1) 土壌中の放射性セシウム濃度はこの方法による除染前の38%に低減しました。

(2) 生産された玄米中の放射性セシウム濃度も、この方法による除染を行っていない水田で生産された玄米の42%に低減しました。

概要

1. 独立行政法人農業環境技術研究所(農環研)は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センター、福島県農業総合センター、太平洋セメント株式会社と共同で、表土の削り取りや反転耕では除染が困難な農地のうち水田について 「水による土壌撹拌 (かくはん)・除去技術」 の放射性セシウム汚染水田の除染に対する効果を明らかにしました。

2. この技術は、汚染水田に水と分散剤 (水酸化ナトリウム) を加えて代かき (しろかき) を行い、排水することを繰り返すことで、水中に分散した放射性セシウムを多く含む細かい土壌粒子を除去するものです。

3. 福島県内の水田 (細粒灰色低地土、粘土含有率28%) で実施した実証試験で上記の処理を4回行ったところ、作土中の放射性セシウム濃度は除染前の38%に低下し、この水田で生産された玄米の放射性セシウム濃度はこの方法による除染を行っていない水田で生産された玄米と比べて42%に低減しました。

予算: 文部科学省 平成23年度科学技術戦略推進費(機動的対応)、 農水省委託プロジェクト 「農地・森林等の放射性物質の除去・低減技術の開発」(平成24〜26年度)

特許: 「土壌解砕装置」(特願2011-265190)、「放射能汚染土壌の除染方法」(特願2011-265184)、「放射線汚染土壌の浄化法」(特願2011-189240)

問い合わせ先など

研究推進責任者:

独立行政法人農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台3-1-3

理事長  宮下 C貴

代表研究者:

独立行政法人農業環境技術研究所

研究コーディネータ  谷山 一郎

土壌環境研究領域 上席研究員  牧野 知之

電話 029-838-8314

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター

上席研究員  太田  健

福島県農業総合センター 生産環境部 環境作物栄養科

主任研究員  齋藤  隆

太平洋セメント株式会社 中央研究所

チームリーダー  高野 博幸

広報担当者:

独立行政法人農業環境技術研究所 広報情報室

広報グループリーダー  小野寺達也

電話 029-838-8191
ファックス 029-838-8299
電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

研究の社会的背景と研究の経緯

1. 23、24年度に水稲の作付が行われた水田の中には、まれではありますが放射性セシウム濃度が比較的高い玄米が生産される水田がありました。

2. すでに耕作された水田では、放射性セシウムによる汚染が10cm以上の深さまで広がっているため、表土のみの削り取りでは十分な除染効果がありません。また、下層の土がやせていたり、石が多いなど、反転耕や深耕の適用が困難な水田も多くあります。

3. 一方、まだ耕作されていない水田については、すでに 「水による土壌撹拌・除去」 が開発されているので、この技術をすでに耕作された水田にも応用できないかと考え、この実証試験を行いました。

4. 本技術は表土の削り取り等による除染が困難で、大型の農業機械が入れない小規模水田向けの除染技術です。

研究の内容・意義

1. 平成23年度に一度作付けされた福島県内の水田 (細粒灰色低地土、粘土含有率28%) において、本技術の実証試験を行いました。

2. この方法は、以下のように行います。水田を畦 (あぜ) 板で囲んで、水田から水が漏れないようにした後、水を入れ、耕盤 (水田作土の下にある硬い土層) からの水深を約25cmにします。分散剤として水酸化ナトリウムを加えて、pHを8〜9とした後、レーザーレベルセンサー1) 等で撹拌の深さを一定に保ちながら代かきを行うことによって、土壌を細かくして、水中に分散させます(写真1-(1))。 ※写真は歩行型の撹拌を示すが、実用化においては低接地圧のトラクターで撹拌します。

3. 代かき後、直ちに水田表面の土壌粒子の混じった水をポンプで排水し(写真1-(2))、タンクに貯めます。タンクに凝集剤を加えて、放射性セシウムが吸着した土壌粒子を沈殿させます(写真1-(3))。

4. 加圧ろ過装置を用いて、沈殿物から水分を除去し、土壌粒子を回収します(写真1-(4)(5))。

5. 2〜4の処理を4回くり返すことにより、地上1mの空間線量率は1.77μSv/h から1.24μSv/h へ除染前の70%に低下し(表1)、深さ0〜15cmの土壌中の放射性セシウム濃度は、3,060 Bq/kg から1,170 Bq/kg へ除染前の38%に減少しました(表1)。

6. 4回の処理で排出される土壌は、厚さ3〜4cm相当 (作土層の5分の1から4分の1程度)でした。

7. 除染後の水田にイネ (品種:まいひめ) を栽培したところ、玄米中の放射性セシウム濃度は除染していない区の42%に低減し、40 Bq/kg から17 Bq/kg となりました(表2)。また、玄米収量は除染していない区の85%に低下しました(表2)。

8. 土壌粒子を分離除去した後の水に含まれる放射性セシウム濃度は検出限界(1 Bq/L )以下でした。

9. この方法の標準的な費用を試算したところ、直接工事費は10アールあたり約100万円となりました (施工面積1ヘクタール、袋詰め脱水、除染作土厚10cmの場合)。

今後の予定・期待

1. 本技術で除染したほ場において、平成25年度も水稲を栽培し、玄米の放射性セシウム濃度と水稲収量を確認する予定です。また、砂が多いほ場でも同様の除染を行い、その後にゼオライトや有機物を施用して水稲を栽培して、収量や玄米の放射性セシウム濃度を確認する試験も実施する予定です。

2. また、袋詰め脱水による低コスト粘土分離技術の実証にも取り組みます。

3. すでに耕作された汚染水田の除染技術として活用が期待されます。

用語の解説

1) レーザーレベルセンサー: 凹凸によりトラクターが傾いても、ロータリー等の作業機を素早く水平に保つためのレーザー感知器。

水による土壌撹拌・除去技術による除染工程(組写真):(1)水の導入、土壌撹拌、(2)ポンプによる濁水の排水、(3)濁水の貯留、凝集剤添加による土壌粒子の沈殿、(4)加圧ろ過装置による水と土壌粒子の分離、(5)排出された土壌粒子

写真1 水による土壌撹拌・除去技術による除染工程

表1 地上1m空間線量率及び除染前後の土壌中放射性セシウム濃度の変化
除染前除染後除染前の値を100とした場合の除染後の値
地上1m空間線量率 (μSv/h)1.771.2470
土壌中の放射性セシウム濃度 (Bq/kg)3.0601.17038
表2 玄米中放射性セシウム濃度及び玄米収量に及ぼす除染の効果
未除染水田除染水田未除染水田の値を100とした場合の除染水田の値
玄米中の放射性セシウム濃度 (Bq/kg)401742
玄米収量 (kg/10a)63553985

新聞掲載: 日本農業新聞、読売新聞、日刊工業新聞、日経産業新聞、日本経済新聞(夕刊)(2月20日)、東京新聞、化学工業日報(2月21日)、環境新聞(2月27日)、茨城新聞(2月28日)

プレスリリース|農業環境技術研究所