農業環境技術研究所 > プレスリリース・お知らせ

お知らせ
NIAES
平成27年2月20日
独立行政法人農業環境技術研究所

農地からの温室効果ガス削減効果を計算するウェブサイト
―土壌炭素量の増減と温室効果ガス発生量を総合評価―

ポイント

・ 農地における土壌炭素の増減と温室効果ガス排出量を同時に計算するウェブサイトを公開しました。

・ 土壌炭素量を増やそうとするとCO以外の温室効果ガスの排出が増加する、トレードオフを考慮して温室効果ガス削減効果を総合的に評価できます。

・ 農家や行政、生産者団体などが、農地管理による温室効果ガス削減の効果を簡単に試算できます。

概要

1. 独立行政法人農業環境技術研究所 (農環研) は、農地における土壌炭素の増減と温室効果ガス (メタン、一酸化二窒素、化石燃料消費由来CO) の発生量を同時に計算して温室効果ガス発生量の総合評価を簡単に行えるウェブサイトを公開しました。

2. 対象とする農地を地図上で選び、栽培する作物や栽培管理方法をメニューから選択するだけで、その農地の土壌炭素の変化量に加えて、メタン、一酸化二窒素、機械作業や資材などに由来するCOの発生量を予測し、すべてをCOに換算して評価します。

3. このサイトを利用して、農家や行政、生産者団体などが、農地管理による温室効果ガス削減の効果を、土壌炭素とCO以外のガスのトレードオフを考慮して総合的に評価できます。

4. このウェブサイトは、2013年に公開した 『土壌のCO吸収量「見える化」サイト』 の機能を拡張し、CO以外の温室効果ガスも評価できる総合評価サイトにしたものです。

予算:

農林水産省委託プロジェクト研究 「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のための技術開発(気候変動対策プロ)」 A-1 系「農業分野における温暖化緩和技術の開発」(平成22年度〜26年度)

問い合わせ先など

研究推進責任者:

独立行政法人農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台 3-1-3

理事長  宮下 C貴

研究担当者:

独立行政法人農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター

上席研究員  白戸 康人

電話: 029-838-8235

任期付研究員  大澤 剛士

主任研究員 高田 祐介

広報担当者:

独立行政法人農業環境技術研究所 広報情報室

広報グループリーダー  小野寺 達也

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8299
E-mail kouhou@niaes.affrc.go.jp

研究の社会的背景

1. 農地の生産力を維持・増進するための有機物管理が、近年、地球温暖化の緩和策の一つとして期待されています。それは、農地に投入する有機物の量を増やすことで土壌中の炭素が増えると、その分、大気に放出されるCOが減少することになるためで、これを土壌の炭素貯留と呼びます (図1)。

2. しかし、土壌に蓄積する炭素がどの程度増減するかは、気象条件や土壌の種類など様々な要因が関係するため、同じような管理を行っても、場所によって大きく異なる場合があります。また、土壌炭素量の変化はゆっくりなので、増減の程度を実際の畑や水田で計測して把握するためには、長い期間が必要です。

土壌炭素(土壌中)が分解して二酸化炭素(大気中)になる。二酸化炭素(大気中)は光合成で植物体となり、呼吸によってまた二酸化炭素(大気中)となる。植物体の一部は収穫物として持ち出されるほか、地上部の植物残渣と枯死根は土壌炭素(土壌中)となる。また、施用された堆肥などの有機物資材が土壌炭素となる。

図1 土壌の炭素循環の模式図

開発の経緯

1. 農環研で研究を進めてきた改良 RothC モデルを活用して、農地土壌に蓄積する炭素量の増減を計算し、増加分を土壌の二酸化炭素(CO)吸収量として示すウェブサイトを作成し、昨年度(2013年度)公開しました。

2. 一方、作物残渣や堆肥の施用量を増やすなど、土壌炭素量を増加させるような農地管理を行うと、メタン(CH)や一酸化二窒素(NO)などの温室効果ガスの発生量が増えてしまう、いわゆるトレードオフの関係があります。そのため、土壌炭素量と大気中に放出されるCOとの関係だけでなくこれらのガスにも考慮する必要があります。

3. また、農業機械や農業資材 (肥料、農薬、プラスチック資材など) に由来する化石燃料消費によって発生するCOも重要です。

4. そこで、昨年度公開したウェブサイトの機能を拡充し、土壌炭素量だけではなく、CH、NO、さらには化石燃料消費も加えた総合評価ができるようにしました。

サイトの概要

1. トップページ (図2) から上部緑色のバーをクリックすると、計算、Q&Aやリンクのページに移動します。

土壌のCO<sub>2</sub>吸収「見える化」サイト(画像);「計算」「Q&A」「リンク」のボタンが上部に並んでいる。

図2 サイトのトップページ

2. 「計算」のページに表示される地図上で目的の地点をクリックすると、その場所の位置情報 (緯度経度) を利用して、気象と土壌の情報が自動的に得られます (図3)。

土壌のCO<sub>2</sub>吸収「見える化」サイト:「計算」ページ(1.場所の選択)(画像);土壌の種類で塗り分けられた地図に「この場所が選択されました。表層腐植質黒ボク土(03D)」と表示され、地図の上方に気象データ(各月の平均気温と降水量)が表示されている

図3 「計算」のページ (場所の選択)

3. 次に、作物の種類、作物残渣(ざんさ)の処理方法、ならびに堆肥の施用の有無をメニューから選択します。残渣や堆肥の量は標準的な値が自動的に入りますが、直接数値を入力することもできます。作物で 「水稲」 を選択した場合は、CH発生量計算のために水管理 (間欠灌漑水田か常時湛水水田か) を選択します (図4)。CHは、この水管理、選択した場所の土壌タイプ、ならびに有機物管理 (ワラ、堆肥などの施用の有無) をもとに計算されます。

土壌のCO<sub>2</sub>吸収「見える化」サイト:「計算」ページ(2.作物と残渣の処理)(画像);・栽培する作物を選んでください。 水稲]・栽培期間を入力してください. 5 月から 9 月まで/・予定収量 530 kg/10a/(省略)/作物残渣の量:合計 569.72 Kg/10a(乾物)/乾物の炭素濃度 40% をとすると、作物残渣由来の炭素投入量:2.28 tC/ha/・水管理 ●間欠灌漑水田 ○常時湛水水田/

図4 「計算」のページ(作物と残渣の処理)
水稲を選んだ場合はCHの計算のための水管理を選択する。

4. NOの発生量は、作物残渣、堆肥、化学肥料に含まれる窒素の量から計算されます。これらの窒素投入量も、自動的に標準的な値が入るようになっていますが、数値の直接入力も可能です (図5)。CHとNO発生量は、日本国温室効果ガスインベントリ報告書が採用している方法で計算しています。また、化石燃料消費由来のCO排出量は、文献に基づいて、作物ごとにエネルギー由来、農薬由来、肥料由来、プラスチック資材由来の合計値が表示されます。

土壌のCO<sub>2</sub>吸収「見える化」サイト:「計算」ページ(3.堆肥と化学肥料の投入)(画像);堆肥を入れますか? ●入れる  ○入れない/投入量 ○0.26 t/10a(生重)/投入月 4月/堆肥由来の炭素投入量:3.2 kg/10a/堆肥のCN比:14.2/堆肥由来の炭素投入量:0.45 tC/ha/化学肥料(窒素)の施用量:5.94 kg/10a/

図5 「計算」のページ(堆肥と化学肥料の投入)
Oの計算のため、化学肥料の投入量の項目が加えられた。

5. 次に、ここまで選択した条件を確認するページが表示されます。計算する条件を変えたい場合は、ここで修正できます。最後に「計算開始」ボタンをクリックすると、気象や土壌の情報、ユーザーが選択した作物や管理の情報が、自動的に改良 RothC モデルに導入され、今後20年間の土壌炭素の増減が計算され、結果がグラフで示されます (図6)。

土壌のCO<sub>2</sub>吸収「見える化」サイト:「計算」ページ(5.結果(土壌炭素))(画像);「標準的な管理」と「あなたの管理」を続けたときの、今後20年間の作土の土壌炭素量(tC/ha)の推移が、グラフとして表示される。また、1haあたりで、乗用車が1年間で排出するCO<sub>2</sub>の何台分うを削減できるかを表示する。

図6 「計算」のページ(結果(土壌炭素))

6. 6. 上記ページ (図6) の下部にある 「メタンや一酸化二窒素も加えた総合評価結果を見る」 をクリックすると、土壌炭素量の増減によるCOの吸収または排出量とCH、NO、化石燃料消費によるCOの発生量を、すべてCO量に換算した総合的な評価の結果が表示されます (図7)。

土壌のCO<sub>2</sub>吸収「見える化」サイト:「計算」ページ(5.結果(温室効果ガス総合評価))(画像);土壌炭素(CO<sub>2</sub>の吸収or排出)に加えて、メタン(CH<sub>4</sub>)と一酸化二窒素(N<sub>2</sub>O)、さらに、化石燃料由来のCO<sub>2</sub>排出(農業機械や資材)も加えた温室効果ガス吸収排出の総合評価結果 が表の形で示される。。

図7 「計算」のページ(結果(温室効果ガス総合評価))

今後の期待

農地の管理を変更することによって、さまざまな温室効果ガス発生量に対してどのような効果があるのか、ユーザーが総合的に理解することができ、農業に関連する温室効果ガスの削減につながることが期待されます。

用語解説

1. 土壌の炭素貯留
農地の生産力を維持するには、堆肥や緑肥をすき込むなどの有機物管理が重要です。有機物管理により、土壌に有機物がすき込まれると、土壌有機炭素が蓄積されていきます。
土壌有機炭素は、もともと植物が光合成で大気から吸収した炭素に由来するので、土壌有機炭素量が増加するとその分だけ、大気のCOが減少することになります。この現象を 「土壌の炭素貯留」 と呼びます。

2. 改良 RothC モデルローザムステッド・カーボン・モデル (Rothamsted Carbon Model: RothC) という英国で開発された土壌炭素動態モデルを、日本各地の水田や畑の有機物や肥料の長期連用試験データを使って検証し、改良してきました。これを 「改良 RothC モデル」 と呼びます。このサイトでは、この 「改良 RothC モデル」 を使って計算が行われています。
このモデルは、土壌中の有機炭素を分解率の異なる5つのグループに分けて計算し、気象、土壌、管理の基本的な情報を入れるだけで、土壌炭素量の変化を1か月単位で計算します。

新聞掲載: 日本農業新聞(2月22日)

プレスリリース|農業環境技術研究所