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お知らせ
NIAES
平成28年3月25日
国立研究開発法人農業環境技術研究所

水田から排出される温室効果ガスの測定手法を標準化

ポイント

・ 水田から排出される温室効果ガス(メタンおよび一酸化二窒素)を測定するための具体的方法を解説したガイドライン(英文)を作成し、WEBサイトで公表しました。

・ 温室効果ガスの排出削減を進めるための、水田における標準的観測手法として、世界各国で広く利用されることが期待されます。

概要

1. 国立研究開発法人農業環境技術研究所(農環研)は、国際稲研究所と協力して、水田から排出される温室効果ガス(メタンおよび一酸化二窒素)量を測定するための具体的な方法をガイドライン(英語版、第1版)にまとめました。

2. 本ガイドラインは、3月22日に、農業分野からの温室効果ガスに関する国際研究ネットワーク 「グローバル・リサーチ・アライアンス(GRA)水田研究グループ」 の公式WEBサイトで公開されました。

3. 国際連合気候変動枠組条約で定められた 「温室効果ガスの排出に関する測定・報告・検証制度」 を世界各国が実施する際に、水田における標準的測定手法として広く活用されると期待されます。

4. 本ガイドラインは、農環研の WEB サイト (http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/manual_e.html) と GRA の WEB サイト (http://globalresearchalliance.org/research/paddy-rice/) から入手できます。

予算: 農水省委託プロジェクト研究 「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のためのプロジェクト (アジア地域の農地における温室効果ガス排出削減技術の開発)」(2013-2018)

問い合わせ先など

研究推進責任者:

国立研究開発法人 農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台 3-1-3

理事長   宮下 C貴

研究担当者:

国立研究開発法人 農業環境技術研究所 研究コーディネータ

八木 一行  TEL 029-838-8430

国立研究開発法人 農業環境技術研究所 物質循環研究領域

南川 和則 ・ 常田 岳志 ・ 須藤 重人

国際稲研究所(IRRI)

アグネス パドレ(Agnes Padre)

広報担当者:

国立研究開発法人 農業環境技術研究所 広報情報室

広報グループリーダー   小野寺 達也

E-mail kouhou@niaes.affrc.go.jp

研究の社会的背景

メタン*1)と一酸化二窒素*2)は、農業分野の寄与が大きい温室効果ガスで、二酸化炭素と同様に排出量の削減が求められています。特に、メタンの地球温暖化効果は二酸化炭素の6割に相当し、その削減は農業分野における温暖化緩和策への貢献の一つとして期待されています。

水田から排出されるメタンや一酸化二窒素の手動チャンバー法*3)による測定は、世界各国の研究に広く普及していますが、現場での適用方法にさまざまな相違がみられます。このため、その排出量を国際的に比較可能とする測定法の標準化が求められています。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の2007年締約国会議(COP13)で採択されたバリ行動計画では、異なる排出源からの温室効果ガス排出削減について測定・報告・検証(MRV)*3), 4) を進めることとされており、温室効果ガス観測の標準的手法の策定が求められています。また、2015年のCOP21におけるパリ協定では、新たな法的な拘束力のある2020年以降の国際的な枠組みで、気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃に抑えるよう努力すること、主要排出国を含むすべての国が削減目標を5年ごとに提出・更新すること、共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、レビューを受けること等を定めています。

研究の経緯

農環研では、水田から排出される温室効果ガスに関して1980年代から研究を実施しており、多くの知見の蓄積があります。また、2013年度(平成25年度)から5年間の計画で実施している農林水産省委託プロジェクト研究 「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のためのプロジェクト(アジア地域の農地における温室効果ガス排出削減技術の開発)」 は、水管理の改善による東南アジア4か国の水田からの温室効果ガス排出量の削減効果の検証とそのMRV手法の確立を目的としています。MRV の実施には、温室効果ガス測定技術の標準化が必須であるため、「水田から排出されるメタンおよび一酸化二窒素に対する手動チャンバー観測ガイドライン」 を新たに作成しました。

農環研と国際稲研究所の研究者が中心となり、世界各国で用いられている測定手法を、文献と関係者からの聞き取り調査をもとに比較検討し、標準的手法をその科学的根拠とともに提案しました。専門家から助言を受けた後、国際研究ネットワークである GRA 水田研究グループ会合*5)において、同研究グループの活動計画に沿った成果物として公表が承認されました。

研究の内容・意義

1. ガイドラインは、「推奨される標準手法 (Recommendations)」、「今後解決すべき問題点 (Evolving issues)」、「本文 (Chapters)」、および 「参考文献 (References)」 等で構成されています。

2. 「推奨される標準手法」 では、ガイドライン全体を把握するための要約と、最低限実施すべき測定法に係る標準的手法が記述されています。

3. 「今後解決すべき点」 は、現時点で研究者の間で合意が得られていない測定上の問題点を記載しました。今後の科学的知見の集積とともに、この部分は順次改訂がなされる予定です。

4. 「本文」 は、「はじめに」、「実験計画」、「チャンバー設計」、「ガス採取」、「ガス分析」、「データ処理」 および 「その他の観測項目」 の7章で構成され、測定のために必要なノウハウとその科学的根拠を詳細に解説しています。

今後の予定・期待

1. ガイドラインは、今後の科学的知見の集積とともに、順次、改訂される予定です。

2. ガイドラインが、GRA の公式 WEB サイトで公開されたことにより、国連気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)で定められた、温室効果ガスの排出削減に関する MRV を世界各国の水田において実施する際に、広く使われると期待されます。

用語の解説

*1 メタン: 主要な温室効果ガスの一つ。化学式CH。二酸化炭素の約34倍の地球温暖化効果がある。主な発生源は、水田、反すう動物、化石燃料の採掘と燃焼等などである。

*2 一酸化二窒素: 主要な温室効果ガスの一つで、成層圏オゾン破壊ガスでもある。亜酸化窒素ともいう。化学式N2O。二酸化炭素の約298倍の地球温暖化効果がある。主な発生源は、窒素肥料を施用した土壌、家畜ふん尿、工業生産プロセスなど。水を張った水田からはほとんど排出されないが、中干しなどの落水により排出される。

*3 クローズドチャンバー法: 土壌面にチャンバー(底のない容器)を置き、密閉されたチャンバー内の空気を一定時間ごとに採取して,ガス濃度を分析することによりガスの排出量を計算する方法。

*4 MRV: 「(温室効果ガス排出量の)測定、報告及び検証(Measurement, Reporting and Verification)」 の略称。世界各国の政府、地方公共団体、企業などが地球温暖化対策をおこなう際には、自らの活動に起因する温室効果ガスの排出量を把握することが必要である。MRVは把握された排出量の正確性や信頼性を確保する一連のプロセスである (環境省・温室効果ガス排出量算定・報告・検証情報ライブラリーより)。

*5 GRA 水田研究グループ: 農業分野からの温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンス (Global Research Alliance on Agricultural Greenhouse Gases) の中で水田を対象とする研究グループ。27か国が参加し、日本(農環研)とウルグアイの研究者が共同議長を務めている。

図表

ガイドライン(表紙)
図1 本ガイドラインの表紙
ガイドライン(ページ例)
図2 推奨される標準手法を示したページ
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