農業環境技術研究所環境化学トピックス(2005) > 土壌くん蒸とは

土壌くん蒸とは

畑で同じ作物を作り続けると畑の土に作物を加害する原因となる病原菌、線虫、ウイルスが集まってきて、そのままでは同じ場所で作物を作ることができなくなってしまいます。そのため農地では定期的に土壌中から病原菌、線虫、ウイルスなどを取り除く(不活性化する)必要があります。
元気のない野菜(イメージ)
日本の農地で使用されているくん蒸剤には以下のようなものがあります。土壌くん蒸剤は土壌中でよく拡散(広まる)する必要があるため、分子量が小さくて蒸気圧が高い(気体になりやすい)ものが多く使用されています。くん蒸剤は広い面積を短時間で処理できる便利な資材ですが、蒸気圧の高い物質が多いため、使用方法を誤ると大気中にたくさんのくん蒸剤が放出されてしまいます。
土壌くん蒸剤の効果
臭化メチル剤による土壌消毒の様子
臭化メチル剤による土壌消毒の様子(イメージ)
臭化メチル剤による土壌消毒の様子

臭化メチルとは

臭化メチルによるオゾン層の破壊(イメージ)
臭化メチルは1932年にLe Goupilにより殺虫活性があることが報告されて以来、植物検疫用のほか、土壌くん蒸剤など有用なくん蒸消毒剤として広く使用されてきました。特に、ピーマン、トマト、メロン等に代表される我が国の園芸農業は、臭化メチルを用いることで連作障害を回避し、集約的生産体系を今日まで維持してきたと言えます。

しかし、臭化メチルはオゾン層を塩素の50倍以上の力で破壊する臭素の供給源であることが分かり、一部の使用を除き2005年に全廃されることとなっています(不可欠用途を除く)。

前述のとおり、我が国の園芸農業は、臭化メチルに大きく依存しているため、代替技術の開発普及が望まれていますが、完全に代わり得る技術は得られていません。代替技術が確立されていない場合には不可欠用途として規制対象外となる余地が残されていますが、その条件として臭化メチルの大気放出量を最小限にする措置が義務づけられています。当研究所では、臭化メチル土壌くん蒸に適した大気放出削減技術の開発を行いました。
研究紹介;被覆資材による土壌くん蒸用臭化メチルの大気放出量削減技術の開発
土壌表面施用くん蒸法による臭化メチルの大気放出量は,慣用のポリエチレンフィルム被覆では施用量の63.8%でした。遮光資材を併用することで56.2%に,ガスバリアー性被覆資材で24.1%に,光触媒含有積層被覆資材で1%以下に削減できました。
1.遮光資材の利用による放出削減

臭化メチル土壌くん蒸に、慣用のポリエチレン被覆資材(0.05mm厚)と遮光資材(TyvekR,DuPont)を組み合わせた結果、臭化メチルの大気放出量は63.8%から56.2%に削減することができました(図1)。

土壌くん蒸からの臭化メチル放出量
遮光資材を利用した臭化メチル土壌くん蒸の様子
2.ガスバリア性被覆資材の利用による放出削減

ガスバリア性被覆資材(OrgalloyR,elf atochem)を用いた場合には、被覆期間中の大気放出量は3.8%に削減できましたが、被覆資材撤去時に大きな大気への放出があり、全体で24.1%が大気へ放出しました(図2)。

ガスバリア性被覆資材と光触媒含有積層被覆資材を用いた土壌くん蒸からの臭化メチル積算放出量の推移
3.二酸化チタン光触媒含有積層被覆資材による放出削減

大気放出をさらに抑制するために、二酸化チタン光触媒含有積層被覆資材(図3)を試作したところ、光分解が増強され被覆資材撤去時の臭化メチルの大気への放出が減少し、臭化メチルの大気への放出量は全体で1%以下に削減できました(図2)。

光触媒含有積層被覆資材による臭化メチルの大気放出量削減技術
二酸化チタン光触媒含有積層被覆資材
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元気な野菜(イメージ)