自然植生の純一次生産力 (NPP)


 自然植生の純一次生産力は、植物が1年間に太陽エネルギーと水と二酸化炭素を使って光合成を行った有機物量総生産量から、植物自身の呼吸によって失われる有機物量を差し引いた値である。即ち、人間や家畜が利用可能な量である。我々は、純一次生産力を気候データから精度よく推定できるモデル(筑後モデル、Uchijima and Seino, 1985)を開発した。
 純一次生産力は、ある気候条件下における自然状態での植物のもつ生産能力と考えることができるので、これを気候資源指標として利用した。筑後モデルは次のような式で表される。
NPP=0.29*[exp(-0.216*RDI**2]Rn
Rn: 純放射量の年合計値(kcal/cm**2)
RDI: 放射乾燥度(=Rn/(L*R))
L : 蒸発の潜熱 (580cal/gH2O)
R : 年降水量(cm)
 我が国のNPPは、北海道山岳地帯の 3 t/ha/yr 以下から、紀伊半島南部、四国・九州南部の 18 t/ha/yr まで分布しており、平野部の大部分は 10 t/ha/yr 以上である。これは世界的に見ても生産力の高い方に属する(世界の純一次生産力の分布図参照)。
 温暖化に伴って我が国の純一次生産力は約10%増大すると予想される。なお、現在の筑後モデルには、大気中の二酸化炭素濃度が増えた場合の効果を取り込んでいないので、二酸化炭素濃度上昇の効果を加えると、さらに増大する可能性がある。しかし、そのためには、現在の植生の分布が気候変化に追随して移動することが前提となる。過去の気候変化は数千年から数万年という非常に長い時間をかけて起こったが、近未来の温暖化は数十年間に起ころうとしている急激な変化であるため、植生帯がこの変化についていけるかどうかは非常に難しい。その場合は、予想されるような生産力の増大は期待できない。

現在の気候値
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温暖化条件下(GFDLシナリオ)
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温暖化条件下(GISSシナリオ)
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温暖化条件下(UKMOシナリオ)
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