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ここに注目 - イネゲノムと未来 - 未来を切り拓くお米のチカラ - 新農業展開ゲノムプロジェクト

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ここに注目

イネの収穫量を増加させる遺伝子の発見
-穀物増産による食糧危機の回避へチャレンジ-

2010年6月24日

2009年、国際連合食糧農業機関(FAO)は世界の飢餓人口が10億人を突破したと発表しました。現在68億人の世界人口も増加の一途をたどっており、2050年には90億を超えると予想され、食糧問題はますます深刻になると考えられます。食糧の需要を満たす為には2025年までにさらに50%の穀物増産が必要とされており、この世界共通の問題は人類の存続がかかった最も優先度の高いものの1つです。我々の研究グループでは最も重要な穀物の一つであるイネの収穫量を増やす遺伝子の発見を試みるとともに、その遺伝子を利用した品種改良を通じて食糧危機回避へのチャレンジを行っています。

日本の一般的なイネ品種「日本晴」は穂の枝にあたる1次枝梗(しこう)の数が約10本で、1つの穂に150粒ほど着きます。一方、名古屋大学で保存している枝梗の多い系統ST-12は約30本の1次枝梗を持ち、1つの穂に約475粒着きます。この2つのイネの収穫量の差はほぼこの1次枝梗の数の差によるものです(図1)。そこで、この1次枝梗の数を決めている遺伝子の同定を試みました。日本晴とST-12を掛け合わせてできた子孫の集団を用いて、遺伝学的な解析を行った結果、12本のイネ染色体の内、第8染色体にこの1次枝梗数の違いを決める遺伝子を発見しました。我々はこの遺伝子に、世界の農家の人々が幸せになるようにとの願いを込め、WFPWEALTHY FARMER’S PANICLE )と名づけました。さらに、研究を進めた結果、WFP遺伝子が転写因子であることを見いだしました。ST-12では穂が形作られる段階で、このWFP遺伝子の発現量が日本晴に比べ10倍近く上昇し、1次枝梗の形成を促進していることが明らかになりました。

また、我々の研究グループは2005年にGn1と呼ばれる粒の数を増加させる遺伝子を同定していましたので、Gn1遺伝子と今回見いだしたWFP遺伝子を用いて、イネの収穫量をどれくらい増加できるか調査しました。日本晴の1次枝梗数が約12本に対し、日本晴にWFPを導入したイネでは約21本まで増加し、1株あたりの粒数は日本晴が2232粒に対し、3142粒へと約41%増加しました(図2)。また、日本晴にWFP遺伝子とGn1遺伝子を同時に導入した場合、1次枝梗数は約24本、1株あたりの粒数は3396粒と約51%増加しました。

穀類の収穫量増加を目指した取り組みは、世界中でいろいろな手法で行われていますが、数%を上昇させるのは大変なことです。このように、Gn1遺伝子、そして今回のWFP遺伝子を利用することで、イネの収穫量を劇的に増加させられることが明らかになりました。

現在、効果の高いGn1WFP遺伝子を交配によって導入した実用品種の育成に取り組んでいます。近い将来、これらの遺伝子を活用した新品種を世界中で栽培してもらうことで、食糧危機回避の一翼を担うことができるものと期待しています。

芦苅 基行

芦苅 基行 (あしかり もとゆき)

九州大学大学院農学研究科博士課程修了(博士学位取得)。農業生物資源研究所(博士研究員)、名古屋大学・生物分子応答研究センター助手、同・生物機能開発利用研究センター助教授を経て、2007年より、名古屋大学・生物機能開発利用研究センター教授

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